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 木陰の間の石段を上がり切り、本殿が見えた。  津彌は本殿が自分を待っていてくれたような気がしてならなかった。本殿の内側ではなく、すぐ外に、自分を待っている何かがいる。それはひどく懐かしい、幼い頃に母に抱き上げられたような温かい記憶と重なるような気配だった。  土地神様が待っている。  津彌は足を速めた。  土地神様がついている。今こそご神体に本来の主をお遷しするのだ。本殿には大国主様のご神体もある。お遷しした後は沖が祈祷を上げてくれる。  津彌はお社の階に足をかけた。  ぐいと背中の布地を引っ張られる。  どきりとして振り向くと、あどけない少年が自分をつかんでいた。  「……敬陽君」  少年は青年の顔を眩しそうに見上げていた。敵意の欠片もなく、ただ美しいものを鑑賞している目だった。  思えばこの子はこの視線をよく向けてきたものだ。偽装のために買ったブラジャーを見る目と同じ。  きっとこの子は端山にも、岳にもこの視線を向けていたのだろう。  そして彼の審美眼は彼らを選んだ。  石段から足音が上ってくる。三人はいる。  小学生など振り払うことは簡単だ。だがもう、どうしようもない。  美しい青年を少年はまだ見上げていたが、やがて石段から姿を現した人物の方へ同じ目で振り返った。  負けたと、青年は思った。  少年は美しさに弱かった。
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