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「俺とユメの力でこいつと新たな契約を結ぶことに成功した。そうしたら、結構魔力を消費したみたいで、髪と瞳の色がこの通り」
話を終えた兄はふうと大きな息を吐く。女性二人は私たちがドラゴンと契約を交わすとは思わなかったようで、その光景に驚いてその場から逃げ出したようだ。
「ということで、この話はこれで終わりだ。そろそろ、お迎えの時間だ。ほら、あれを見ろ」
兄が指で指示した方向に私が通り抜けてきた謎の扉が立っていた。あまりにもいきなりのことで言葉が出ない。しかし、兄はここに謎の扉が現れるのがわかっていたような口ぶりだ。
『私はユメたちについていけるのか?』
「どうだろうな。まあ、契約者のユウシャとやらはお前を置いてどっか行っちまったんだから、連れていけないのかもしれないし、あるいは」
「一緒に帰ろうよ。その大きさならぬいぐるみだとごまかせる、と思うし」
せっかくドラゴンと契約をしたのだ。このままお別れになるのは寂しい。兄も少し考えていたようだが、最終的にドラゴンを元の世界に連れ帰ることに合意した。
こうして、私たち二人と一匹は謎の扉を抜けて元の世界に帰った。
あれから、私と兄とドラゴンは謎の扉が現れるたびに異世界に行くことになった。異世界に行くと、それから元の世界に戻れないなんてことは、物語の中では良くあることだが、私たちは何か目的を果たすと、今のところ、必ず元の世界に戻ることが出来ている。
「タツミ。行くよ」
「俺を忘れるなよ」
ドラゴンにはタツミという名を付けて、家で飼うことにした。ミニチュアサイズのドラゴンを部屋の外に出すわけには行かないが、今のところ、元の世界にいるときはおとなしく部屋で過ごしている。異世界では元の姿に戻って私たちを空の旅に連れ出してくれる。とても頼もしい友人だ。
私たち二人と一匹は謎の扉を抜けて今日も異世界に旅立つ。兄は異世界に着くと、髪の色と瞳の色を魔法で変えることは今でも続けている。私もそれに倣おうとしたが、せっかく色を変えられるならと、金髪にオレンジやピンクなどの色が混ざったグラデーションの髪色にした。瞳の色も金色に変えてみた。
「兄妹に見えないのを悲しんでいた色の変え方には思えないな」
「お兄ちゃんが私を妹だと言ってくれるのならいいんだよ」
私たちは兄妹。それを兄が周りに宣言してくれるのなら、それでいいのだ。周りが何と言おうと気にしないことにした。
「ああ、やっぱり異世界って、はたから見たらいいよなあ」
異世界に着くたび、兄はこんな言葉を呟いている。確かに異世界は物語の中だと憧れがあるが、実際に住むには私たちの今までの生活とは違い過ぎる。
こんな言葉を言えるのは私たちが実際に異世界に行くことが出来るからだ。
(お兄ちゃんと一緒なら、異世界での生活でも最高だけどな)
絶対に兄には言わないけれど。
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