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「あれ、私死んでない……」
「死ぬなんて不吉なこと言うなよ。俺がたまたま通りかからなかったら、どうなっていたことか」
近くで男の人の声が聞こえたので、そちらに視線を向けると、そこには金髪碧眼の兄によく似た男が立っていた。私はどこかの家のベッドに横たわっていた。
「ここは?」
「俺のここの世界での家だ。狼みたいなやつに襲われそうになっていたところを俺が助けてやった」
「ありがとうございます」
「いいや別に」
お前にそんなこと言われると、なんだかむず痒いな。
男は私のお礼の言葉に照れながら両手を顔の前で振っていた。何か変なことを言っているが、それよりも聞きたいことがある。
「私、自分の部屋に変な扉が現れて、その扉を通ってきたらこの世界に居ました。私って、元の世界に戻れますか?」
「ああ、うん。きっと、この世界での役割を果たしたら帰れる、と思うぞ」
俺の時もそうだから、きっとお前の時もそうなるだろうな。
先ほどからぼそぼそと後半の言葉を濁している。何か、私がこの世界に来た事情を知っているのかもしれない。とはいえ、いきなりその辺を指摘したら怪しまれてしまう。いったん、今の私が置かれている状況を確認することにした。
辺りを見わたしてみる。私がベッドの上にということは、この部屋は寝室だろう。男の言葉通りなら、男の家の寝室ということになる。
アニメや漫画で見た異世界の寝室にそっくりだ。ベッドとほかに木の棚が置かれて、そこには見たことのない言語で書かれた本がずらりと並んでいた。部屋には時計はなく今の時刻がわからない。窓がベッドのそばにあったが、窓ガラスは木枠にはまっていた。
「やっぱり、この世界は不便だと思うか?」
「やっぱり?」
「こんな住宅設備の整っていない家が現代日本にあってたまるか。俺はこんなところにずっと住み続けたいとは思わない。たまにここにきてたまに遊ぶのがちょうどいい」
「ふうん」
どうやら、この男は兄によく似ているが、兄とは違うようだ。男の顔を改めて観察すると、髪と目の色が違う以外は兄にそっくりだった。兄がイメチェンしたのかと思ったほどだ。しかし、兄は異世界がかなりいいものだと主張していた気がするし、私のことを妹だと思っていないため、別人のようだ。
「俺の顔に何かついている?それとも」
お前のお兄ちゃんに似ていて、惚れたとか?
「ば、バカじゃないの!」
「そうだよなあ。あははは。冗談だよ」
兄のことを考えていたら、目の前の兄によく似た男にじっと見つめられて焦ってしまう。しかも、兄の顔で惚れたとか聞いてくるとか反則だ。
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