現実世界が一番だけど、お兄ちゃんと一緒なら異世界でも最高です!

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「ねえ、村の外でドラゴンが出たって!ライ、あんたにも討伐要請が来ているから急いできてちょうだい!」  兄によく似た男と話していたら、突然、部屋をノックせずに女の人が二人入ってきた。私は驚いてとっさにベッドの布団の奥に潜り込む。 「まったく、部屋に入るときはノックしてからが常識だろう?ドラゴンがきたとか言っているけど、村の外って言ったって、出たのは森の奥だろう?」 「だ、だって、こういう時でないと、ライは私たちの相手をしてくれないでしょう?」 「そうそう、私たちがどんなに誘っても、ライは一緒に来てくれないでしょ」  布団の中で、彼らの会話を盗み聞いていると、どうやら彼女たちは男の知り合いらしい。なんとなく、彼女たちは兄に似た男に好意を抱いているような感じだ。しかし、男は彼女たちを好きではなく、反対に嫌悪している気がした。言葉の端々にとげがある。反対に女性たちの声は甘ったるくて、兄に似ている男に媚びているということもあり、気分が悪かった。 「それで、そこのベッドには誰を隠しているのかしら?私たちのことを無視して、誰と仲良くしていたの?」 「それ、私も気になるー」  布団にもぐって隠れていたものの、やはり不自然な布団の盛り上がりに気づかれてしまった。 「こいつは……」 「この人の、い、いもうと、です!」  男が何を言い出すのかわからないため、とっさに私は布団から頭を出して先に自己紹介してしまった。兄に似ているというだけで兄ではないが、今はこういった方が正解な気がした。男は私の話に合わせてくれるようだ。慌てて私の言葉に頷いて話を補足する。 「そうそう、こいつは俺の妹。俺に会いに来たみたいで家まで連れてきた」 「ふうん、妹ねえ。妹なのに、ライとは似てないのね」 「そもそも、髪も瞳も真っ黒で、似ているどころか正反対なんだけど。それで兄妹とか言われてもありえないでしょ」 「それは……」  痛いところをつかれて私と男は言葉に詰まる。しかし、その手の質問はこの世界に来る前から言われていたことだ。  兄は髪色が茶色っぽく二重のぱっちりした瞳で色は白い。反対に私は真っ黒な髪に真っ黒な瞳。奥二重の浅黒い肌。身長だけは兄と同じで高め。そこくらいしか似ていない。 『はあ』  女性二人は私が返事に詰まっているのを見て、あきらめたような溜息を吐く。 「まあいいわ。とりあえず、ドラゴンが村のはずれまで来ているのは確かだから。そいつらを討伐するためにライの力が必要なの。だから、その子をさっさと家に帰らせて、私たちと一緒に来てちょうだい」  深紅の髪をポニーテールにした女性はベッドわきの椅子に座っていたライの腕をつかみ、椅子から立ち上がらせる。ライと呼ばれた男は嫌そうに女性の手を振り払う。 「わかったよ、行けばいいんだろ。行くのは構わないが、一つ言っておきたいことがある」  男は女性二人をまっすぐ見つめて、思いがけないことを言い始める。 「俺は魔法で髪と瞳の色を変えている。だから髪や瞳の色だけで兄妹かどうか判断するな」 (魔法で色を変えている……) 
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