現実世界が一番だけど、お兄ちゃんと一緒なら異世界でも最高です!

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 どうやら、この世界では魔法という概念があるようだ。それだけでも驚きだが、それ以上に目の前の男が髪と瞳の色を変えているというのは驚きだ。ということは。 「魔法以前の問題でしょ。似ていない」 「ユメが傷ついているだろ。シルバー」 兄かもしれない男と私が似ていないと言われてしまうと、元の世界の兄とのことを思い出して落ち込んでしまう。似ていないが、両親の遺伝子を色濃く受け継いでいるので、兄とは正真正銘、血のつながった姉弟である。両親は仲が良くて浮気など考えられない。  男はそのまま部屋のドアの元まで歩いていく。似ていないとはっきり言葉にしたのは部屋にいたスカーレット以外のもう一人の女性である。私より身長が低く、長い白いローブを足首まで羽織っていて、銀髪を背中まで伸ばしていた。 「じゃあ、俺が帰るまでおとなしく休んでいろよ。帰ってきたら一緒に家に帰ろう」  慌ただしく、男と女性二人は部屋を出ていった。 ※※ 「あれ、私って名前を教えた?それに」  男は一緒に帰ると言っていた。それはいったいどういう意味か。魔法の件もあるので、これは確実に。ひとり部屋に残された私は、先ほどの男の言葉を思い出し考える。 (だとしたら、めちゃくちゃ恥ずかしい……)  兄に似た男が本当に兄だったとして、今は女性たちと外に出ていった。今考えなければならないことは、自分自身の状態を確認することだ。ベッドから下りて大きく伸びをするが、痛いところはないし、特に目立った外傷はない。身体に異常はないようだ。  私は男の言いつけを破り、兄たちの元に向かうことにした。  外に出ると、空は青く雲一つない晴天だった。この世界の空も、元居た世界と同じ空の色だ。まだそれほど時間が経っていないはずなのに、家が恋しくなってしまう。家に帰るための方法は男が知っているのだろう。何とかして男に会うため、私は歩きだした。 (いざ、外に出てみたはいいけど、どっちに行けばいいのだろうか)  男の家から出たはいいが、既に男と女性二人の姿はどこにも見当たらない。改めてこの街の様子を確認すると、兄が話している異世界の世界にそっくりだった。家が道の両側に並び、道の前では露店が立ち並んでいる。 (今はまだ昼間のはずなのに、どうして誰もいないの?)  きっと、何時もなら露店はたいそうにぎわっているのだろう。そう思ったのに、今は露店には人っ子一人見当たらない。道を歩いている人もいなかった。 (そういえば、ドラゴン?が来ているとか何とか言っていたな)  深紅の髪の女性が言っていた気がする。ドラゴンなんて、異世界の定番の生き物だ。村に危険を及ぼす危険があるのだろう。それを男と女性二人が退治しに行ったのだ。 (とはいえ、あの女性二人がドラゴン退治か)
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