現実世界が一番だけど、お兄ちゃんと一緒なら異世界でも最高です!

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 男の今更過ぎる戸惑った反応に笑えてしまう。それにしても、どうしてこのドラゴンはこちらが攻撃しているのに、反撃をしてこないのだろう。 「はあ、仕方ないな。ユメ、お前、魔法は使えそうか?」 「ライ、なに言って」 「そうだよ、どう見ても、この子に魔法なんか扱えるわけ」  男、私の兄らしき人物は私に真剣な表情で問いかけてくる。どうやら、この場は私の行動次第で状況が変わってくるようだ。魔法が使えないことなど、兄が一番よく知っているだろう。それでも、ここは異世界である。 「使えるんじゃないの。たぶん」  普通なら使えないはずだが、何せ、私は謎の扉でこちらまで来たのだ。何か意味があって扉が現れたに違いない。もしそうだとしたら、今が私が呼ばれた理由なのかもしれない。 (とりあえず、ドラゴンと会話がしたいな。それが出来ないのなら、雷とかの一撃必殺の技が使えたら便利だな)  ドラゴンを見上げると、私の視線と絡み合う。ドラゴンの瞳は爬虫類のような瞳孔となっていた。 『私はここから離れられない』   その時、頭に直接謎の声が流れ込む。辺りを見わたすが、私の周りには兄と深紅の髪の女性と銀髪の女性しか確認できない。そうなると、声の主はおのずと限られてくる。 「どうして?拘束されているようには見えないけど」 「ユメ、なにを言っている?」 『私の声が聞こえるようだな。それは無理だ。私はここに縛られてしまっている。最近、この世界にやってきたとかいう、ユウシャとやらと無理やり契約を結ばされてしまった』 「ふうん」  ちらりと兄の顔を盗み見るが、兄はドラゴンと会話はできないようだ。女性二人に関しても同様で私が突然、独り言を言い出したように見えるのか、怪訝な顔をしている。ユウシャとやらは彼らではないようだ。 「おい、ユメ、危ないからそいつから離れろ!」 「ムリ」  兄が心配しているのはわかるが、このままでは無駄な時間が続くだけだ。私は無意識にドラゴンのそばに近寄り、その身体に手を触れた。  私の意識はそこで途切れた。   ※※ 「ユメ!」 「お兄ちゃん……」  目を覚ますと、異世界の兄の家の寝室のベッドに寝かされていた。ドラゴンに触れたことまでは覚えているが、そこで意識はブラックアウトしてしまった。あれから、どうなったのだろうか。ドラゴンは無事にこの場を離れることが出来たのか。部屋には男しかいなかった。 「いきなりドラゴンに触れるから、どうなることかと心配したんだぞ!」  私が目を覚ましたことに気づいた兄が私をぎゅっと抱きしめる。髪はいつの間にか茶色っぽい黒髪とそれと同じ色の瞳になっている。いつもの兄の髪色と瞳の色に一気に安心感がわいてくる。
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