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私はしばらくの間、兄の抱擁を黙って受け入れた。目から水がこぼれてしまったが、兄の服にぐりぐりとこすりつけてごまかすことにした。
『仲睦まじい兄妹だな』
お互いの気持ちが落ち着いて兄はベッドわきの椅子に座り、私も目をこすって水を拭い去る。そのタイミングを計ったかのように、頭の中に謎の声が響き渡る。
「おい、ユメに変な真似したら、容赦しないぞ」
『ずいぶんと妹にご執心のようだな。安心しろ。私を忌々しいユウシャから解放してくれた恩人だ。恩はあれど、敵対する理由はない』
声のありかを探そうと辺りを見回すと、私の腹の上に小さなドラゴンがちょこんと座っていた。いきなりミニチュアサイズのドラゴンを見つけて、思わず凝視してしまう。黒い体に見覚えはあるが、まさか先ほどまでのドラゴンが小さくなったとは思うまい。しかし、声は聞き覚えのある男性の声だ。
「ユメ、お前は覚えていないだろうが、お前がこいつと新たに契約しなおしたんだ。まあ、俺も手伝ったんだが」
兄が私が意識を失っていた間のことを簡潔に話してくれた。
私がドラゴンに触れると、ユウシャとやらの契約を無効にしてしまったらしい。ドラゴンの首に謎の文様が浮かび上がり、その直後、いきなり雷がドラゴンの首の文様だけをきれいに破壊したようだ。
「あれは見事だった。まさか、自分の妹が異世界に来てすぐ、ドラゴンと言葉を交わし、雷の魔法でドラゴンの契約を壊してしまうほどの実力者だとは思わなかった」
楽しそうに話しだす兄にジトリとした視線を向けてしまう。兄はもう、自分が兄だと隠すことは辞めたらしい。
「ああ、そうか。俺の説明を忘れていたか。さすが俺の妹だよな、髪の色と瞳の色を変えていても、ユメは俺のことがお兄ちゃんと気づいたとは恐れ入った」
「最初から言ってくれればよかったのに」
『兄妹のことは後にして、さっさと私のことを話せ。今後の私たちは如何したらいいのか話し合う必要があるだろう?』
話が脱線したことに気づいたドラゴンが私たちの会話に割って入ってくる。私たちとはいったいどういうことか。兄はいつの間にか、ドラゴンと会話できるようになったらしい。ドラゴンの言葉に嫌そうに返事する。
「はいはい。話しますよ。そうそう、ユメのおかげで俺もこいつと話せるようになった」
「そうなんだ。それで?」
「ユウシャとの会話を破棄したユメは、自分とお前との契約を新たに結んだ。さすがにこれについては俺も関わらせてもらった」
兄は先ほどまでのドラゴンとのことを話し始める。私も話の続きが気になったので黙って話を聞くことにした。
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