1.和真

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 最寄りの駅につくと、三分ほどで啓吾の家につく。駅前のマンションの十五階。それが啓吾の家だ。この辺りでは一番価格の高いマンションだと聞くが、啓吾の両親はいわゆるエリートの共働きだったので難なく買えたのだろう。 「ただいま」  中から返事は返ってこないが、啓吾は必ずただいまを言う。母親と弟を事故で亡くしてから啓吾は父親と二人で暮らしているが、お互いを思いやり助け合って暮らしており、こういう言葉も自然に出るのだろう。いや、もしかするともういない二人の家族に対して言っているのかもしれない。  それは美しくもあるが、無くしたものを必死で埋めているようにも思える。啓吾の両親は子どもを心から愛し大切にしていたし、兄弟仲もよかった。偽物ではない、真に仲のよい、誰もがうらやむような家族だったのだ。  しんと静まり返った玄関は寂しい。それに泣きたくなってくる。なぜあのとき、と何度も繰り返した問いかけを今もしてしまう。  啓吾の部屋の前に立つと、部屋の中には入らずに和真は言う。 「シャワー浴びるから、ローション貸して」  ドアノブに手をかけた啓吾はじっと和真の顔を見てくる。何か言いたそうだが、あぁ、とだけ答えると部屋の中からローションを持ってきて渡してきた。  勝手知ったる他人の家だ。和真は風呂で体を洗い、尻の中を丁寧に洗うと、ローションで後ろをほぐしていく。何度も男を受け入れたそこはすぐに緩くなったが、啓吾に面倒だとか痛いだとかやりにくいだとかを思われたくなくて、念入りにほぐした。  風呂から出ると、脱衣所のドアの前で啓吾は待っていた。和真の頭をポンポンと叩くと脱衣所に入っていく。和真はとっさに啓吾の手をはらった。 「あ、その、せっかく準備したし、早くしよ」  啓吾は顔を歪めると和真の後頭部の髪をぐしゃりとつかんだ。 「そんなにやりたいの? こんな清純そうな綺麗で可愛い顔してさ、ほんとお前ビッチだよな」 「気持ち悪いこと言うな」 「今更怒るの? ビッチなのは本当のことだろ」 「そこじゃなくて、可愛いとか……」  声が小さくなる。こんなの社交辞令なのに何を本気にしているのか。自分が醜くて可愛くないのは知っている。啓吾はこんな時にだって優しい。いや、昔から啓吾は自信のをつけさせるためか、よくそんなことを言ってくれた。それが嬉しかったが、今では辛いだけだ。  和真がすっと視線をずらすと、啓吾は小さな声でくそっと呟き、和真を部屋に連れて行く。  啓吾は和真の体を押してベッドに倒すと、ベッドの脇に立ちシャツを脱いだ。和真は起き上がるとベッドに座り、啓吾のズボンのベルトを外してチャックを下ろす。黒い下着の中で、和真の雄が怒張しているのが分かった。  和真が顔を寄せると、むっと雄の匂いが鼻腔をつく。今日は初夏で汗ばむ気温だった。啓吾が慌てて腰を引くが、かまわず顔を寄せて下着の上からチュッとキスをすると、パクリと口に含んだ。 「馬鹿。汗かいてるから」  啓吾は焦ったように言うが和真はかまわず下着ごとちゅうちゅうと吸う。乾いた布の感触はやがてじっとりと濡れた感触に変わっていった。  一ヶ月ぶりの啓吾の匂いに頭がクラクラする。啓吾の匂いが好きだ。だから風呂になんて入らないでほしかった。そんなこと言ったら軽蔑されるだろうから言わないが、啓吾の匂いに包まれたかったのだ。  啓吾はもう一回腰を引くと、今度は下着をずらした。下着からビョンと飛び出した啓吾のペニスが和真の頬を叩く。  啓吾のペニスも好きだった。体が大きいだけあってそこも大きいだ。大きいだけではなく、カリがしっかりと張っていて血管が浮き出ている。和真はむしゃぶりつくようにそれを口に含んだ。  目の前には美しい腹筋がある。この体も好きだ。和真は啓吾を形作る全てが好きだった。形だけではない。もし啓吾の形が違くても、啓吾を好きになる自信があった。 「勿体ないけど、一回出させて。そうじゃないと今日、めちゃくちゃにしそう」  勿体ないってなんだろうと内心で笑う。自分の体内に出したいのかと思うと嬉しかったが、男なんて皆そんなものだろう。特別な感情などなく言ったことだろうと己に言い聞かせながら頷く。
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