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「先輩お待たせしまし、」
先輩たちの元へ戻れば、そこにいたのは先輩と見知らぬ二人の男。
「すみません。冬美さんに何かご用ですか?」
考えるより先に身体が動いていた。先輩と男たちの間に身体を滑り込ませ、わざとらしく首を傾げてみせた。
自分たちよりも長身の俺が出てきてビビったのか、怯えた顔をして去っていった男たちにやってしまったと我に返る。
「……えっと、先輩。さっきの人たち知り合いだったりします?」
「ううん、知らない人。だからありがとう明石君。少女漫画のヒーローみたいですごくかっこよかった」
「……あー、はは。それはちょっとハズイです」
両手が塞がっているせいで顔を隠すことができずに唇を引き結ぶ。
先輩にヒーローだと言ってもらえるのは嬉しいけど、ヒロインを助け出すヒーローなんて絶対俺のキャラじゃない。俺にはヒロインに絡みまくってヒーローから引きはがそうとして失敗する、当て馬役がお似合いだ。
恥ずかしさと居たたまれなさで身体が熱を持つ。もう、冷たそうな土の上を転げまわりたい。
「あと名前呼んでくれて嬉しかったし、ドキドキしちゃった」
「…………え、あ。つい、勢いで。……すみません」
突っ込んで欲しくなかった所まで突っ込まれた挙句、軽率に爆弾を投げてこないで欲しかった。ゲームなら間違いなくオーバーキルだ。
転がるよりも、もういっそ穴を掘って埋まってしまいたい。
「……そういえば先輩、友達はどうしたんですか?」
上の方から溶け始めたかき氷を先輩に渡しながら、話を逸らす。さっきまで痛かったかき氷の温度が今は心地いい。
「あぁ、邪魔しちゃ悪いからって行っちゃった」
この羞恥心から逃げ出したくて話を逸らしたのに、これは何の仕打ちだろうか。
どろりとした赤いシロップに呑み込まれていった氷が、まるで自分のようで。でも、何時までも口内に甘さを残すシロップが先輩なら。それはそれでいい気がしてしまう。
「……先輩、まだ食べたいものとかやりたいこととかあります? もし大丈夫だったら、一緒に花火しませんか」
赤いラインの入ったストローのスプーンで赤色に染まった氷を掬って口に放り込む。
「花火出来る所あるの?」
「ここの公園から少し離れた場所に花火出来る穴場あるんですよ」
「うん、じゃあ一緒に花火しよう」
ゆるりと上がった先輩の口角と柔らかく細められる目。その表情が嬉しそうに見えたのは、俺の願望がそうさせたのだろうか。
甘い甘いかき氷は、舌の熱にあっという間に溶けて消えていった。
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