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刑務官の言った通り、次の日も雨だった。死刑囚の間では、拘留中に降る雨を、恩赦の雨と呼ぶらしい。
この際、一日でも長く生き残ってやる。
雨よ降れ、雨よ降れ。
その次の日も雨。私は不思議と苦しくなってきた。死にたくはない。でも、常に死と隣り合わせだ。いずれ死刑になることはわかっている。だけど、どこかで早く楽になりたい自分がいた。
まったくもって、身勝手な思いだ。私に斧で殺された四人の家族が聞いたら、どう思うだろう?
その次の日も雨は降り続いた。
刑務官が牢屋の鍵を開け、「出なさい」と声をかけた。
私は刑務官の顔をじっと見る。
「連日の雨で地盤がぬかるんでいる。隣村まで緊急避難することになった。今から移動する」
私は馬車の車両に乗せられた。
手首は縄で縛られ、自由は利かない。
相変わらずの激しい雨。これが噂に聞く、恩赦の雨か。
両脇を二人の刑務官に挟まれた。
「おまえも悪運が強いな。四日間も生き延びやがって」
隣の刑務官が嫌味たらしく言った。
雨はその間にも勢いを増していった。
途中、馬車の車輪がぬかるみにハマり、動けなくなった。
隣の刑務官が応援に外に出た。
私は手首の縄が緩み始めていることに気づいた。手首を小刻みに動かしているうちに縄が抜けた。逃げるチャンスだ。
私は隣の刑務官の顔面にパンチを食らわす。
刑務官が怯んだ隙に、車両から飛び出した。
激しく降る雨の中を、私は猛烈な勢いで走り抜けた。
まさに恵みの雨だった。雨よ降れ、もっと降れ。
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