恩赦の雨

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 私は一軒の教会の前に立っていた。  手には斧。返り血と汗で、むせ返るような匂いを放っていた。  先ほど、私は大罪を犯した。  金目当てで侵入した農家で家族四人を斧で斬りつけ、殺害。金品を探したが、ほとんどは食糧品ばかりで金目のものはなかった。  どこからか村人が訪ねて来たらしく、私は何も盗らずに飛び出し、あてもなく彷徨い、教会にたどり着いた。  三角屋根の上に屹立している十字架が目に入った時、私は初めて神に懺悔したいと思った。  別に私は神など信じてはいなかった。両親から虐待され、明日のご飯さえ、ろくに食べられない極貧生活。こんな生活に嫌気が差して私は家を飛び出した。  もし、神がいるなら問いたい。どうして、私だけがこんな苦しい思いをしなければならないのか?どうして、あんな、慈悲の心もない両親のもとに生まれて来なければならなかったのか?でも、神は答えない。いや。そもそも答えられないのさ。神なんていやしないから。  だけど、私はその十字架に吸い寄せられるかのように、教会の前に立っている。  私は躊躇なく、重厚な木の扉を開いた。  中には誰もいなかった。長い通り道が礼拝者の席を挟んで、演台に向かって 真っすぐに伸びていた。  その演台の上には荘厳なステンドグラス。そこから後光のごとく、光が降り注いでいた。
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