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八百年も本の虫だったわけなんで知識量だけは神の領域。人脈もある。こういったお悩みに対して適切な判断、助言を与えられる。普段はダメダメな分、ごくごく稀に見せるそんな姿だけは、ほんのちょっぴりながら格好よく見える気がしなくもないっす。
「ところでボク達も気になっていたんですけど。パー様、そちらのお嬢さんは?」
まったく、パーシェルは本当に気が利かないっす。こんだけ長く会話していて、未だにエリーのことを紹介してくれないんですから。
「エリーは断罪竜様の神器っす! ノア様にお会いできて光栄っす!」
テラさんは何事か言いたげにじーっと、エリーを見るっす。ノア様は元神竜様なので、エリーの立場としては真っ先にご挨拶するべき御方であって。彼の名を呼ばなかったことに他意はないのですが、気にされたのでしょうか?
エリーの神器としての務めは、断罪竜様の神器を罪ありし者に触れさせぬよう守ることでした。そうした者に触れられた瞬間、骨の髄まで焼き尽くす業火をお見舞いしてやるのです。人間は大なり小なり何らかの罪を犯して生きる者。エリーに触れて無事にいられるのなんて、せいぜい赤ちゃんくらいのものっす。
その務めを果たすため、エリーはこの目で見た人の内面を読む能力を持っていたっす。その力は終末を迎え、エリーが人になったことで消え失せたっす。あの力があれば、口をきけないテラさんが今何を考えているのかお見通しだったのに。こういう場面ではちょっと、不便を感じなくもないっすね。
「エリー様は普段、何をなさってるんですか?」
「え?」
ノア様の素朴な疑問に、並び立つテラさんはうんうん、頷いています。もしかして、同じこと考えてたっすか?
「パー様は求職中で、今後何で生計を立てて暮らしていくか考えてるところなんですよね。エリー様にも何か、これからどんなことしたい~って希望はあるんですか? せっかくボク達、人間になってこれからは何でも自由に、したいことが出来るんですし」
どうやらノア様は、神竜から人間になれたことを心から喜んでおられるご様子……一点の曇りもない無邪気な喜びで、にこにこ笑顔をエリー達に向けてきます。
エリーはパーシェルが迎えにきた八百年前より以前、二千年前からお勤めをしてきました。断罪竜とは世の中の秩序を保つための神であり、その第一の配下として、エリーは二千年も尽くしてきたっす。
それが……ある日突然、全ての権能を失って、ただの人に。今までの務めの経験など、人間社会の勤めでは何の役にも立ちません。こんなのってあんまりじゃないっすか?
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