登校:カフェオレがお好み

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 その後仕事を終え、僕は貰ったコーヒーを入れた。アイスだけど、氷がほとんどないから、微妙に温いコーヒーになった。ミルクとシロップを出来るだけたくさん入れて、カラカラかき混ぜる。一瞬で氷など解けてなくなったけどね。  実を言うと、コーヒーはちょっと苦手。嫌いじゃないんだけど、お腹緩くなっちゃうんだよね。コーヒー少なめでミルクがたっぷり入っていると大丈夫なんだけど、これは……たぶん、お腹痛くなるやつだ。  とはいえ、子ども扱いされるのは癪なので、飲みますけど!  コーヒーを持って店を出る。自転車に腰掛けながら青空の下でそれを飲んでいると、向かいのスタンドで車の洗車をしていた直人さんが僕に気付いて手を振ってくれた。  それに応えて小さく手を振り返すと、車の陰から柄沢さんも僕を覗いた。そして何やら二人で笑い合うと、柄沢さんは僕を指さし、大声で叫んだ。 「カフェオレ飲んでんのか!?」  ……っ、バカにしやがって!! 「うるさい!!」  叫ぶと、二人は手を叩いて笑った。  嫌い!! 僕、やっぱり柄沢さん苦手だ!! 前からずっと思ってたけど、改めて思ったよ! あの人苦手だ! いつだってそうなんだよ! いつも僕のことを子ども扱いする!  ここでバイトを始めて、常連の二人と会話をし始めるようになった頃、首に虫刺されのような跡をつけている直人さんを見て、「こんな時期に蚊にでもさされたのかな」と思ったんだ。そんな僕の視線に気付いた直人さんが、「俺の顔になんかついてる?」と聞いてくるから、首、と言おうとして……。だけどその前に、柄沢さんがポコンと彼の頭を小突いた。そして「キスマーク見えてんだよ、バカ」と言った。  それでようやく僕は「これがキスマークというやつか!」と知り、慌てて視線を反らした。何も知らなかった僕もバカだとは思うけど、赤面してしまった僕に、柄沢さんは「ガキには刺激が強すぎんだろ」と直人さんを窘めたのだ。こんなことくらいで赤面してしまう僕も、そりゃ悪いと思うけど、でも……ガキって言うなって思ったんだ。  それが最初。無邪気で気さくな直人さんが僕にちょっかいを出したり、揶揄ったりするたび、柄沢さんはそれを止めてくれる。止めてくれるけど、いつもそれが「ガキを揶揄うな」って言葉なんだ。おかげさまで、地味に苛立ちが蓄積されていってる。それなら、揶揄いに来る直人さんの方が何十倍もマシだ。  コーヒーを持ったまま僕は自転車のスタンドを蹴り上げ、サドルに跨った。  もう映画を見に行く! 僕は気分を害した!  そんな僕に、二人は顔いっぱいの笑顔で、「気を付けて帰れよ!」って手を振ってくれる。  ……そうなんだよ、腹立つんだけどやっぱりいい人達なんだよ。  それでもぷいっと顔を背かせてペダルを踏みこむと、背後から「柄沢が怒らせた~!」って二人で大笑いする声が聞こえて、「今度は最初からカフェオレ奢ってやるから!」と極めつけの一言を頂いた。 「絶対いらない! バーーーーカ!!!!」  叫んで、全力で自転車をこいだ。  嫌いだ! 柄沢さんなんか、大っ嫌いだ!
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