野戦ドクター・森村 真希

1/15

9人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
「我々は、この国の腐敗した政治家に天誅を下し、この国をより良い方向に導くために、今回の行動を起こさざるおえなかったのだ!」 私が従事する施設のテレビの向こうで、私がここに派遣される元凶となった人物が、高らかに自分の考えを主張している。 東南アジアのとある国で、クーデターが発生したのは一ヶ月程前の事だ。 クーデターを起こしたその国の軍隊は、またたくまに国家全体を掌握し、それから程なくして、隣国に対する侵攻を開始した。 この理不尽極まりない一方的な侵略を、国際世論は一斉に非難し、国際社会は侵攻された隣国へのあらゆる支援を惜しまずに実行した。 私が臨時に所属する事になった陸上自衛隊も、クーデターが開始された直後に開かれた閣議決定に従い、速やかに侵略されている国の前線基地へと派遣され、臨時の医師として陸上自衛隊の特別チームに同行した私、森村 真希は現在、陸上自衛隊が管理する野戦病院で、ドクターとして従事している。 私は元々、[STARS]と言う組織に身を置いていた。 いや、STARSには現在も籍を置いているが、今回は急に起こったクーデターによる負傷者の支援に従事するために、STARSから陸上自衛隊に臨時に貸し出された身である。 私が所属するSTARSは、ざっくり言うと[国境なき医師団]の、のれん分けに近い組織になる。 私達STARSと国境なき医師団の一番の違いは、民間組織であるのか、そうではないのかと言う点だ。 国境なき医師団は民間の組織だ。 国境なき医師団は主に、世界中からの寄付を資金源として、組織を運営している。 それに対して我々STARSは、国連に加盟する各国政府が予算を出し合って設立した、医師や助ける人々の国籍を問わない[公共の医師団]と言った所だ。 よって私達は、国連やその加盟国からの要請に基づいて世界各国に派遣され、指定された地域で指定された期間、医療業務に従事する事が義務付けられている。 国連の所属である私達STARSは、基本的には国境なき医師団のように、自分達が出向く地域を選択する権利はない。 これは私達の資金源が、国連に加盟する各国政府が捻出する資金である事が原因で、私達は民間組織では無いために、そこへ行けと言われたら、何か特別な問題でもない限りは、必ず指定された地域へ出向かなければならないのだ。 しかし、国連の命令で多方面に出向くという事は、逆を言えば国連によって身の回りの安全を保証されていると言う事でもある。 事実として、私が3年前に派遣された、とある難民キャンプがレジスタンスに襲撃された際、襲撃を受けた私達が、ロシア軍特殊部隊に無傷で救出された事は、当時世界中で大きく報道されたものだった。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加