野戦ドクター・森村 真希

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私は根負けしてコックピット内部に招き入れてくれた自衛官に、お礼の一言すら言う余裕も無く、内部に居た操縦士達にある質問をした。 「この飛行機の無線機で、今私達を攻撃している飛行機へ話しかける事は出来ますか?」 私が言った突然の提案に、私の意図を理解できないでいる操縦士達は、一様にポカンと私の事を見つめている。 そしてその直後に、私達を護衛していた最後の戦闘機が撃墜されたと、レーダーらしき物を見つめている隊員が叫んだ。 彼の叫びで我を取り戻した他の隊員達が、何故そんな事をするのかと私に訪ねてきたが、今そんな事を説明している暇はない。 私はコックピット内に響き渡る程の大きな声で、それが出来るのかどうかを彼等に再び問うと、出来るのであれば、どうか私に彼等と話をさせてほしいと頼み込んだ。 すると、彼等は少しだけ考え込んだ後、パイロットの一人が、自分の身につけていたヘッドフォンを外し、それを私に差し出した。 「そのヘッドフォンの先に付いているマイクに向かって話せば、この無線が届く範囲の全ての航空機が、貴女の話を聞くことが出来ます」 私はパイロットからそう説明を受けると、すぐにヘッドフォンを自身の耳に装着し、マイクに向かって話し始めた。 「私は国連から派遣された、STARSと言う医師団に所属する、森村 真希と言う者です。この無線が聞こえているのなら、聞こえている方々は、どうか私の話を聞いて頂きたい。私は今、私自身が乗っているこの輸送機へ攻撃を行っている飛行機を操る方々へお話しています。私は、ロシア空軍のベア少佐と多少の付き合いがある者です。この無線が貴方達の耳に届いていたのなら、どうかベア少佐に攻撃をやめるようにと連絡をとって頂けないでしょうか? この輸送機に乗っている物は、この輸送機を運用するために必要な兵士の皆さんと、残りは全て日本に帰国するために搭乗している民間人のみです」 ここまで話した所で、私が呼吸を整えて伝えたい事の続きを話そうとしていると、コックピット内の自衛官達からどよめきが起こっているのに気がついた。 「ロシア空軍のベアとは、まさか北極圏の死神の事を言っているのか?」 自衛官達は私の話を横で聞いていて、一様に困惑した表情を浮かべている。 だが、私はそんな事お構いなしに、私達を攻撃している彼等に向かって再度話を始めた。 「戦争なのは分かります。貴方達にとって、私達は敵である事も分かります。でもこの輸送機に乗っている者達は、全員が民間人です。どうか……どうか私達を行かせて下さい。お願いですから、一度ベア少佐にこの無線の内容を伝えて下さい」 これが、私の閃いた事の全てだった。 この輸送機と、私達を護衛している戦闘機を攻撃してくると言う事は、攻撃している者達が、反乱軍の所属である事は明白である。
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