野戦ドクター・森村 真希

13/15

9人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
ならば、反乱軍を支援しているロシア空軍に直接話をする事が出来れば、この状況を打破する事が出来るかもしれない。 しかし、だからと言ってこの無線を聞いてくれた彼等が、ベアに話を通してくれる保証など何処にもない。 むしろ、ベアに話をしてくれる可能性なんて、ゼロに等しいのだろう。 それでも私は、私自身とこの狭い輸送機の中で恐怖に震える人々のために、僅かながらの可能性であったとしても、行動せずには居られなかった。 もはや私達を守ってくれる戦闘機は、ここには存在しない。 だから私は、自分達が生きる為に、出来る事は何でもしようと思った。 どんなに惨めでも、今私達が生きている事実と、生きようとする意思はなによりも強く、尊重されるべきだと思うから。 私が彼等に無線で話しかけてから、5分程時間が経った。 だがその5分は、体感的には数時間が経過したような緊張感を、私達にもたらした。 しかし、護衛の戦闘機達はまたたく間にやられてしまったのに、それでも私達の乗る輸送機は、5分もの間、一度も攻撃を受ける事は無かった。 そして、パイロットに返却する事すら忘れていたヘッドフォンに、少しだけ何かを引っ掻いたようなノイズが聞こえたその時。 「森村先生。久しぶりだ」 何処から発信しているかは分からないが、私が身に着けるヘッドフォンに、誰かが話しかけてきた。 だが、その一言の言葉を聞いただけで、私はその声の正体にすぐに気がついた。 同時に私の目からは大量の涙が溢れ出し、私は必死に声の主に向かって返事を返した。 「ベア!!! ベアなのね? ああ神様! なんて事なの! ベア……どうか私達を見逃して下さい。私達は、まだ死にたくはないの。どうか……どうか……」 敵であるはずなのに、ヘッドフォンから聞こえてきたベアの声に、私はとても安心し、泣きながら彼に助けを求めた。 あのジャングルで、彼は命を掛けて私を助けてくれた。 だから彼ならば、例え敵であったとしても、再び私達民間人を、この窮地から救ってくれるかもしれないと思ったのだ。 そして神は私の願いを聞き入れ、私に再びベアと再会するチャンスを与えてくださった。 私は必死に懇願した。 何でもするから私達を逃してくれと、すっかり力の入らなくなった足を、コックピットの床に擦りつけながら、敵であるはずのベアに、必死に助けを求めた。 すると…………
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加