野戦ドクター・森村 真希

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「ベア隊隊長機から作戦司令本部へ。現在交戦中の敵性航空機群は、既に撃墜したF-15戦闘機を除くと、残りは民間人を運んでいるだけの輸送機である事が判明しました。なお、この輸送機は非武装機であり、これを撃墜する事は国際法に抵触する恐れがあるため、現場指揮官としての緊急を要する作戦判断として、ベア隊はこの輸送機への攻撃を中止し、ただちに基地へ帰還するものとします」 と言うベアの肉声が、私の身につけているヘッドフォンから確かに聞こえた。 ヘッドフォンから聞こえたのは、このベアの一方的な通信内容のみだったが、この時パニックになりかけていた私の冷静さを欠いた頭でも、自分達が無事に祖国に帰れるという事だけは、なんとか理解する事が出来た。 そして私は、間もなくしてある事実に気がついたのだった。 [ベア隊はこの輸送機への攻撃を中止し………] 窮地を脱して落ち着きを取り戻していく頭の中で、私は何故かこの言葉がひっかかった。 その後私は、その言葉の意味を自ら理解し、戦慄する。 名も知らない筈の敵の誰かに、ベアと話したいと懇願してからの、ベアが応答してくれるまでの時間の短さ。 それに、先程聞いたベアの一方的な無線の内容。 そのどれをとっても、導き出される答えは一つしかあり得なかったからだ。 たった今私達と交戦していたのは………ベアの戦闘機隊? 彼があちらの作戦司令本部との会話の一部を聞かせてくれたのは、私達を逃がすと言う事実を、私に教えてくれるため? そんな事を頭の中でグルグルと考えていると、私達のコックピットの真上を、二機のSU-57戦闘機が猛然と追い越していく姿が見えた。 あの戦闘機のどちらかは、確実にベアが操っている戦闘機だと確信した私は、暫く彼等の戦闘機を目で追ったが、その機影はみるみる小さくなり、またたく間に彼等は私の視界からは消えてしまった。
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