野戦ドクター・森村 真希

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こうして私達は無事に日本に帰国し、普通の生活に戻った。 今回の遠征で強く感じたことは、どんなに強い志を持って人を助けようとしても、そんな物は一発の銃弾によって簡単に打ち砕かれてしまうという事だ。 戦闘機の残骸と共に、炎に身を包んでいく兵士の命を、私は輸送機の窓から眺める事しか出来なかった。 目に映る人の命くらい、私の手で助けられる。 そう思って今日まで医療に携わっていた私の幻想は、あの輸送機の中で音を立てて崩れ去った。 [戦争と言うものはそういう物だ] 戦地に足を運んだ事のない若者達が、戦争の現実わ分かったようにSNSに書き込んでいる言葉を見て、実際に戦地で医療支援を行った私は何も言い返せないでいる。 確かに、戦争と言うものはそう言う物だと思ったからだ。 にも関わらず、私達を逃してくれたベアに関しては、複雑な心境だ。 私がメスを持って患者を治療するように、彼はミサイルの発射ボタンを押しただけ。 私達はお互いに、自分が望んだ道を行き、自分に与えられた役割を果たしているだけなのだ。 このような考え方は、一般世論には受け入れられないかもしれない。 でもそのように考えないと、今の私は崩壊してしまう。 ベアに会いたい。 彼はどれだけのプレッシャーを背負って自分の役割を果たしているのだろうか? 酒を飲み、ベロベロに酔っ払いながら、彼とそのへんの話を心行くまでしてみたい。 実際に自衛隊員の命を奪った彼は、私の今の考え方を否定するだろうか? そのあたりの話を、いつかベアと出来ることを願って……… 完
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