野戦ドクター・森村 真希

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正直に言うと、仕方がないと入っても、一時的に自衛隊の隊員としてに行動する事には、真希自身かなりの抵抗があった。 自分は医師であり、兵士では無い。 いくらSTARSや国連から、自衛隊側に自分の立場が説明されていたとしても、今は従軍医師として前線基地での医療支援に従事している事になっている。 どんなに国連が私の身の安全や立場を守ってくれたにしても、やはり今の立場では、私の派遣された前線の野戦病院が攻撃を受けたとしたら、私も何かしら戦わなければならないのだろう。 医師として人を助ける事と、兵士として人を助ける事は、明らかに違う。 もし私が戦いに参加しなかったとしても、ここで私が助ける命は、傷が癒えれば、再び戦地で人を傷つけるために助かる命だ。 [君が助けた命は、再び戦いに身を投じる事になる] 以前ベアから言われたこの一言が、そう言われたその時から、今の今まで私の頭の中から忘れられた事はない。 それに、私はベアに言われた言葉に対する答えを、未だに用意出来ていない。 「真希? 真希なのか?」 そんな事を考えながら、派遣先の野戦病院の通路を歩いていると、突然後ろから名前を呼ばれ、私は私の名を呼ぶ者の方向へ振り返る。 振り返った先に居たのは、なんと私の恋人である、望月 和正だった。 「真希、なんで君がこんな所に? まさか、医療支援目的で国連から派遣された医師が君だったのか?」 彼は自分が知っている情報と、私がここに居る事実を瞬時に頭の中で照らし合わせ、私がここに居る理由をすぐに理解したようだ。 私としても、彼が陸上自衛隊に勤めている事は知っていたものの、仕事の都合で出張になったとだけ聞いていたので、まさかこんな所で再開を果たすとは思ってもいなかっただけに、久しぶりに彼の顔を見られた嬉しさと、今自分達が置かれている状況に対する不安とが、私の心に一気に押し寄せて来てしまって、私はその場で思考が停止したかのように動けなくなってしまう。 すると、そんな様子で動けなくなっている私を、彼は人目もはばからずに抱きしめてくれた。 いつもはチームとして派遣されるはずの医療施設に、今回はたった一人で派遣された心細さと不安が、彼に抱きしめられた事で一気に開放されてしまった私は、それから数分の間、彼の服の袖が濡れてしまうほどの涙を流し、なんとか自分の気持ちを整えると、彼には夜にゆっくり話そうと約束を取り付け、私は自分の仕事に戻った。
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