野戦ドクター・森村 真希

5/15

9人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
その後、私は残った仕事を必死に片付けると、なんとか彼との約束の時間には仕事を終え、彼が事前に予約していたレストランへと向かった。 彼とは久しぶりに顔を合わせる事もあり、お互いの近況報告なども含めて、かなり話が弾み、お酒も入っていた事もあり、気がつけば時間もかなり過ぎていたので、私達は最後に、今後のお互いのスケジュールを確認し合ってから、お互いに帰路についた。 久しぶりの再開は、とても楽しい時間となったのだが、この食事会で一つ、私の心に小さな心配事が生まれ、それが宿舎に帰ってからの私の睡眠欲を妨げる。 「俺達の部隊は、明日からもう一つ前線に位置する基地に移動して、建物の修繕や、新しい宿舎の設営などの支援を行うんだ」 その言葉に、私は微かな不安を覚えた。 今日、帰ってきてから自室のテレビつけてくつろいでいると、私達が敵対している侵攻国に対して、あのロシア連邦が、武器や弾薬、食料などのバックアップ体制を約束するとの政府発表を、ロシア政府の報道官が、クレムリンで行ったと報じていたからだ。 私は彼が明日から派遣される基地の場所を、机いっぱいに広げた大きな地図で確認する。 すると、先程彼が言っていた最前線基地の場所は、ここから北西に150キロ程の場所にある事が分かった。 それだけを確認して、私は再び自分のベッドに潜り込むが、やはりなかなか眠れない夜を過ごし、一夜が開けた。 翌朝、フラフラする体で朝食を作りながら、寝不足でぼーっとする頭を掻く。 ボリボリと音を立てて、寝癖混じりの髪の毛の奥を引っ掻く伸びた爪が、ぼんやりしている私の思考回路を、やんわりと刺激している。 そんな調子で焼き上がった目玉焼きを、少し焦げてしまったトーストの上に乗せると、私は窓越しに見える外の様子をちらっと見た。 窓の外では、ドアに日の丸のマークが塗り付けられたトラックに、自衛隊員が続々と物資を運び込んでいる。 それがこれから別の前線基地に向かおうとする、彼の部隊であると想像するのに時間はかからなかった。 トーストを食べ終わり、食後の紅茶をダラダラと啜っていると、窓の外に居たトラックの列が、一斉に移動を開始する。 そのトラック群のすぐ後ろから、それを追いかけるように多くの装甲車が続き、更に走り去っていく彼等の上空からは、全体を監視するように横に並んだヘリコプターが二機、最後尾から車列の後を追いかけて行った。 私は彼等の残していった砂埃をぼんやりと見つめ、残った紅茶をぐっと飲み干すと、ハンガーに引っかかっていた白衣を身にまとい、今日も勤務先の野戦病院へと向かった。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加