野戦ドクター・森村 真希

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時は過ぎ、彼が別の前線基地に支援へ向かってから、一週間が過ぎた頃。 「森村先生! 森村先生!」 いつものように最前線で負傷した兵士の治療にあたっていた私のもとに、なにやら血相を変えた陸上自衛隊員が駆け寄ってきた。 「森村先生、貴女に早期の退避勧告命令が出ました。貴女を含めた退避勧告を受けている人を出国させる輸送機が、間もなくここから近い滑走路のある基地に到着します。そこまでは我々が送りますから、今すぐ荷支度を整えて、我々の用意したヘリコプターに搭乗してください」 私を迎えに来た陸上自衛隊員は、慌ただしく私にそう告げると、すぐさま私の手を引っ張って、野戦病院から私を連れ出した。 私は成されるがままに宿舎の自室に戻り、大急ぎで自身の荷物をスーツケースに詰め込んでいく。 突然の退避勧告命令と、あの陸上自衛隊員のかなり焦った様子から、いちいち理由を尋ねなくても、私の身に切迫した危険が迫っている状態であることは察知出来る。 そう言った状況からして、退避勧告命令の理由などは、退避中のヘリコプターの中で、ゆっくりと自衛隊員に聞けば良い。 今は兎に角、自分の身を守るのが最優先である。 私にはSTARSで培ってきた経験がある。 そんじょそこらの新米派遣医師と一緒にされる訳にはいかない。 こういう時に重要なのは、今自分は何をすべきなのかと言う、優先順位を間違わない事だ。 数年前のジャングルで、私は当時の仲間達と、嫌と言うほどそれを学んだのだから、その経験をここで活かさない理由が思い当たらない。 そう自分に働きかけてくる自分自身の本能に従いながら、私は必要な物だけを素早くスーツケースに詰め込むと、部屋の外で待っていた自衛隊員に連れられて、すぐに待機していたヘリコプターへと押し込まれた。 私をヘリコプター押し込んだ隊員は、私と共にヘリコプターには搭乗せず、彼が外側からヘリコプターのドアを閉めると、ヘリコプターはすぐに私を乗せて離陸した。 その時ヘリに同乗していたのは、私を含めた5人。 そのうちの一名が、ここから私達をエスコートしてくれる自衛隊員だった。 私は早速、何故突然の退避勧告が発令されたのかを、エスコート役の自衛隊員に尋ねてみた。 「丁度一時間程前、貴女方が滞在していた場所から北西にある前線基地が、ロシア空軍の戦闘機による大規模な爆撃を受けました。その基地と貴女達が滞在されていた場所の距離がかなり近い位置にあったので、貴女方に退避勧告が出たんです」 私達が滞在していた場所から、北西に位置する前線基地。 ロシア空軍戦闘機による大規模な爆撃。 たった今自衛隊員の口から説明されたこの2つのキーワードは、その後私の心を激しく動揺させるのに、然程時間はかからなかった。
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