野戦ドクター・森村 真希

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ベアとはあの一件以来再会していないが、その一回の出会いが、私にとってはとてもインパクトの強い経験になたのは確かであって、私は彼の事を、戦友と言っても可笑しくない関係性なのだと、勝手に思い込んでいた。 その彼が、いや、もし自衛隊員達の言っている死神が、私の考えているベアだとしたら……… 狭い機内で情報を集める事に必死になっている自衛隊員と、明らかに動揺している彼等の様子を見て、一様の不安を心に抱えてしまった助け出された者達のせいで、ヘリコプターの機内はたちまちパニックに陥ろうとしている。 そんな混乱が続いている機内で、真希は一人足を畳んで座席の上に座り込み、塞ぎ込んでいた。 [おい皆! 朗報が聞きたかったら少し静かにしてくれ。今本部から入電中だ] ヘリコプターのパイロット席に座る操縦士の一人が、たった今もう一人のパイロットと共に、作戦司令本部から何か大切な内容の指示を受けている事を明かすと、機内はまたたく間に静寂を取り戻した。 やがて通信を終えた隊員がこちらを振り返ると、とても穏やかな顔をして私達に指示された内容を伝え始める。 「皆良く聞いてくれ。このヘリには民間人も乗っているので、詳しい情報は伏せるが、先程DDH-184から、F-35Bが4機、緊急発進したそうだ。尚発進したF-35Bは、こちらに到着次第、我々が安全空域に到達するまでの間、護衛の任務に当たってくれると言う事です」 パイロットが伝えた作戦司令本部からの指示内容を聞いた自衛隊員達は、一斉に落ち着きを取り戻すと、その後はなだれ込むように自分の席に着席し、今詳細を話す事は出来ないが、とにかく我々には凄く強力な護衛がつくから、もう大丈夫だと私達にも教えてくれた。 結果から言うと私達はその後、道中何事もなく安全地帯へ逃れる事が出来た。 無事に安全地帯へと送り届けてくれた自衛隊員に頭を下げ、その後日本に向けて飛び立つ特別機に乗るために、私は現地の空港まで私達を輸送してくれるバスに乗り込もうとしていると、先程まで搭乗していたヘリコプターの乗員が、私を声をかけてくれた。 「森村先生。DDH-184と言うのは、護衛艦かがの型式番号で、F-35Bと言うのは、その護衛艦から発艦した海上自衛隊所属の戦闘機の事です。聞く人間が聞けば、何の事かなどすぐに分かってしまうのですが、[万が一何があるか分からないので]、あえて民間人の皆様には分かりにくい表現で伝えさせて頂きました。それでは、お気をつけて」 彼は私にそう告げると、一枚の封筒を差し出した。 私はそれが何を意味するのかも分からないまま、改めてその隊員に頭を下げると、封筒を受け取って空港へと向かうバスへと乗り込んだのだった。
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