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「ラプラスは、大きなテロ事件や災害があると、そこに必ずと言っていいほど現場にいるというデータがあります。だが本当にそうなのか? そこで考え方を逆にしてみました。現場にラプラスがいる、ではなく、ラプラスがいるから現場になる──そう、ちょうど自分がいるから雨が降る雨男のように。そしてラプラス本人はそれに絶対の自信を持っている」
「まるで本人に訊いたように言うな」
「戯言ですから。となるとゴムボートで土石流を下ったのも意味がある。ターゲットが確実に災害に見舞われるようにするためだと」
班長はそこまで言うと、大親分の反応を静かに伺うが、考え込んでいるのか眠っているのか分からないような無表情のままだった。
「なかなか面白い話だが、それと儂が依頼主だとどう結びつくんだね」
「災害救助で忙しい広島県警にお邪魔して、組織犯罪対策第一課で話を聞いてきました。あの日、手打ち式をしていた組は大親分も手を焼いていたそうですね。できればどちらも潰したいと」
「まあな。なんど仲裁しても揉めるもんだから、頭を痛めてたのはその通りだ」
「頭痛の種が無くなって良かったですね。しかも自然災害で。これなら遺恨が残らない」
「たまたまそうなっただけだ」
大親分は班長をじろりと見たあと、帰るようにうながした。
※ ※ ※ ※ ※
「おかえりなさい班長、どうでしたか」
班長は本部に帰ると、土産のもみじ饅頭を皆で分けるように言いながら部下に渡し、自分の席に座りひと息つく。
「ま、予想通りとぼけられたよ。証拠も何もない推理どころか妄想のたぐいだからな」
「そうでしたか」
「ただ収穫はあった。はっきりとは言わなかったが、間違いなく大親分が依頼主で、目的は面倒な組の一掃だろう」
「そのためにあんな大災害を起こしたんですか」
壁にかけられた液晶テレビでは、ワイドショーが土砂災害の被害、死者、重傷者、倒壊した家屋が増えていると報じていた。
「それがテロリストとヤクザだということだ」
班長は苦々しく吐き捨てる。
ワイドショーは天気予報のコーナーに変わっていた。
──続いて天気予報です。太平洋上に現れた台風は、コースをそれて本州南側をすすみ、現在は熱帯性低気圧になった模様です──
班長は窓から晴天の空を見て呟く。
「ラプラスめ、必ず捕まえてやるからな」
ーー 了 ーー
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