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──翌日の朝は快晴だった。
ラプラスはいつも通りビュッフェで朝食を摂ったあと、ロビーのテレビで朝のニュースを観ていた。
班長と部下もそれぞれ客を装い交互に行観する。
「チェックアウトは何時だ」
「今日の午後四時です」
午前九時くらいから、例のイベント参加者が続々とチェックインしてくる。性別も年齢も住んでる所もバラバラで、およそ犯罪とは縁遠い人ばかりだった。
「身元調査はすんでいるか」
「はい。全員きれいなもんでした」
午後になるとホテルはほぼ満室となり、ラプラスのチェックアウトまであと四時間となった。ラプラス本人は自室に籠もっている。
班長は何気なくテラスからの景色を見ていると、真下のホテルに動きがあった。
「おい、下のホテルに黒塗りセダンばかり集まっているぞ。なにかあったのか」
「調べてきます」
部下は待機チームに連絡をとると、班長に報告する。
「わかりました。反社組織の手打ち式だそうです。同じグループの末端同士の抗争が長いこと続いてたんですが、例の広島県警の活躍で手打ちの流れになったそうです」
「そうか。なら関係ないな」
そう班長が呟いた途端、胸騒ぎが起きた。理由は分からないが、長年の勘というべきものが騒ぎ始めたのだ。
そしてそれに呼応するように空が曇り始めた──。
※ ※ ※ ※ ※
さっきまでの晴天が嘘のように雨が、いや土砂降りが、いや集中豪雨が起きた。
「どういうことだ、さっきまで晴天だったろう」
「太平洋上で起きた台風の切れ端が飛んできたそうです、県内に災害警報がでました」
宿泊客は全員足止めとなり、万が一に備えて最上階に集まっていた。
「ラプラスはどうした」
「それがさっきから見当たりません」
探しに行きたいが、この状況では動けない。
宿泊客は外の想像を絶する豪雨の災害風景に怯えていた。
「ああ、なんてことだ、オレのせいだあ」
「あたしが、あたしが来たばかりにぃ」
「こんなことになるなんて……」
宿泊客から嘆きの声が漏れ聴こえてくる。
豪雨はますます酷くなり、ついに土砂崩れがおき土石流災害がはじまった。
支配人の指示により屋上に避難すると、災害救助ヘリがやってきて、少しづつ宿泊客が救助されていく。班長と部下はラプラスを探すが見当たらない。
「班長、あれを」
部下が指差した先に、救命胴衣を着込んでゴムボートに乗ったラプラスが、土石流に飛び込もうとしていた。
「ラプラス!!」
班長は叫んだが、ゴムボートは土石流に呑み込まれながら下のホテルに向かう。
そして手打ち式が行われていたであろうホテルは、その土石流により崩壊、宿泊客全員が死亡するという最悪の事態となった──。
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