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「私って、さあ。一度も誰とも別れたくなかったのよ」
それが大学時代の恋人。成瀬 弘子と別れた時の最後の言葉だった。
そう。やっとのことで、か細い声で言った彼女は俺の目の前ですすり泣いていた。
――――
都内にあるモルタル塗りのアパートのドアを開ける。ビールの空き缶が床に散乱しているが、都会の喧騒に比べれば俺にはこの部屋が唯一の落ち着ける場所だった。
ふと、ドアを開ける際に落ちたのだろう。一枚の手紙が赤色のカーペットに挟まっていた。
誰からだろうと、開けると、中学時代の友人の間平 一郎からだった。
そこで、おやっと思った。
確か、一郎は川で仲間と一緒に遊んでいる時に溺れて死んだはずだったのだ。
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