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「で、今日はどうしたの一葉。仕事の悩み? それとも恋の悩み?」
「ウサギが全然捕まらない」
「初心者狩人の悩みじゃん」
眉間に二本の皺を寄せた麻奈美は抹茶ティラミスにスプーンを差し込んだ。
ひとかけ掬って、口に運ぶ。
「まあでもそれで悩んでるってことは、ちゃんと始めたんだね『IT』」
麻奈美は唇の端に抹茶の粉をつけたまま微笑んだ。
彼女は大学で出会った友人で、卒業後もよくこうして会ってはカフェでお茶をしながらおしゃべりしている。今回マッチングアプリを勧めてくれたのも彼女だ。
「うん。でもこういうゲームしたことなくて」
「あー慣れてないとちょっと難しいよね。ちょっと見せて」
私はアプリを起動させたスマホをテーブルに置いた。
周りに見られてないかなとこっそり見回すが誰も気にしている様子はない。
別に悪いことじゃないんだろうけど、なんとなくマッチングアプリに登録していると知られるのは恥ずかしかった。
「麻奈美も『IT』やってたんだっけ」
「そうそう今の彼氏もこれで出会ってさ。意外とみんな普通の人だよ。うわあ懐かしいな、このゲーム」
ゲーム。
私たちがそう呼んでいるのが『IT』の革新的なシステムだった。
マッチングアプリでは男女双方がハートを贈り合うことでマッチングが成立する。マッチングしてようやくメッセージの交換ができるようになるのだ。
そのハートを贈る工程に障壁を設けたのが『IT』だった。
相手のプロフィールに表示されているハートをタップすると画面が切り替わり、広大な草原が現れる。そこに一羽のウサギが現れたかと思うと、途端にものすごいスピードで走り去っていく。
そのウサギを捕まえて初めて、相手にハートを贈ることができるのだ。
「でもなんでこんな面倒くさいことしなきゃいけないのよ」
「面倒だから詐欺とか少ないんでしょ」
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