金曜日の推し活

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 蓮が帰る前に、まどかには一つ確認したいことがあった。 「あのさ日高君」まどかの声に、蓮は「はい」と返事をする。 「これからも、来てくれるんだよね?  今まで通り金曜日に」  まどかの言葉に、蓮は眼を瞠る。 「俺のこと、許してくれるんですか……?  あんな、自分勝手なことをしたのに」  驚くのはまどかの方である。  まどかとしては、退会をした理由夫説明し謝罪にきたのだから、きっとこれからも金曜日に料理を作りに来てくれると、勝手に思っていた。  だが蓮としては、自分勝手な理由でまどかに何も告げず退会してしまった自分をまどかが、許すはずがないと思っている。  改めて、この日高 蓮という人物は、驚くほど真面目で責任感の強い人物なのだと思い知る。  まどかは笑みを浮かべ、肯定するように大きく頷く。 「だって、こうして理由を説明して謝罪に来てくれたでしょう?  私としては、それだけで充分。  それに、最初から怒ってない。驚きはしたけど」  諭すように言うが、蓮は黙ったままである。 「勿論、無理強いはしない。でも、日高君が嫌じゃなければ、これからも金曜日に来てくれると嬉しい。  今より、来る回数が減っても構わないから」  まどかの言葉に、蓮は暫しの間思案する。  たっぷり時間を取り、蓮が徐に口を開く。 「今まで通り、という訳には行かないかも知れません。  でも、如月さんが来ても良いと言ってくれるのなら、出来る限り来たいと思ってます。  それに、料理の腕落ちるのも嫌なんで」  照れ隠しか、ぶっきらぼうな物言いになる。  まどかは小さく肩を揺らす。そして、「勿論」と笑みを浮かべる。  まどかの様子を横目で見ながら、蓮が口を開く。 「あの、連絡先交換してもらえませんか。  依頼受けるとしても、連絡取れないのは不便で……」  今までは、アプリ内のメッセージ機能を使って連絡を取り合っていた。だが蓮がアプリを退会した今、連絡を取るためには連絡先を交換するしか術がない。  まどかは立ち上がり、鞄の中に入ったままスマホを取りに行く。スマホを手に戻ったまどかは、再び蓮の横に腰を下ろす。  スマホを操作し、メッセージアプリのQRコードを表示させる。 「これ読み取れる?」まどかが問えば、蓮もズボンのポケットからスマホを取り出し、カメラを鼓動させQRコードを読み取る。  すぐさま、画面にまどかのメッセージアプリのアカウントが表示される。蓮は、試しにメッセージを送ってみる。 『これからも、よろしくお願いします』  絵文字も何もない、素っ気ない文章がまどかのスマホに届く。 「届きました?」蓮の問いにまどかは「ええ」と頷く。  まどかの反応を見ると、蓮はスマホに視線を落とす。時刻は、午後八時を過ぎており、そろそろ暇を告げようと思案する。 「そろそろ帰ります。  次来る日なんですけど、今週の金曜日にお伺いします。食べたいもの考えておいてください」  蓮は腰を浮かし、そう口にする。まどかは「分かった」と頷く。 「それと、再来週から期末考査で来週は難しいと思います。単位落としたら、ちょっとあれで……」  蓮はそう言いつつ苦笑いを浮かべる。  学生の蓮にとって、最優先事項は勉学である。趣味にのめり込み過ぎて、単位を落とすなどしたら、目にも当てられない。  玄関まで蓮を送りながら、まどかはずっと気になっていたことを尋ねた。 「ずっと聞きたかったんだけど、日高君って大学で何を学んでいるの?  やっぱり、栄養学とか調理とか?」 「いや、それ良く言われるんですけど、実を言うと建築を学んでいます。  まぁうちの大学の場合、元女子大ということもあって、家政学の中に建築学があるって感じですけど。  昔から、家が出来ていく過程を見るのがなんか好きで、料理と似てる気がするんです。それで、将来は家に関する職に就けたらなぁ…と」 「そうなんだ……」思ってもいない発言に、まどかはそう呟くしか術がない。  これだけ、料理に拘りを持ってる蓮なら、栄養学などを学んでいて当然と、思い込んでいた。 「まぁ、まだ漠然とですけど」  蓮は小さく笑う。  将来のことは蓮にも分からない。  玄関まで進むと、靴を履きくるりと振り返る。 「夜分遅くにお邪魔してすみませんでした。  また金曜日に」 「来てくれてありがとう。  気を付けて」  まどかは小さく手を振る。 「如月さん。鍵閉めてくださいね。危ないですから」  指摘に、まどかは言葉が詰まる。 「おやすみなさい」蓮は笑って、戸を閉める。足音が遠ざかっていく。    まどかは、言われた通り鍵を閉める。ガチャリという音が、部屋に響く。音は不思議と、虚しさは感じなかった。 今日を入れて後五日―。  五日経てば、蓮はまた来てくれる。  そう思案すると、まどかの顔が綻んだ。と同時に、腹の虫が騒ぎ出す。 さぁ、何を食べよう―。  まどかは、冷蔵庫を開け中を覗き込んだ。
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