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志木渉。もし雪が初めて信用できた大人だとすれば、時間の問題だ。雪が、俺という存在の滑稽さに気づいてしまう。
俺は初めて綻びを見つけたあの日思い出す。
"何で死のうとするんだよ"
"生きている理由が何一つ見つからなくて"
"生きている理由?そんなモノ、立派な人しか持ち合わせてないよ、何期待してんの?"
"春、私生きていたくないの"
"あのね、雪。別に死のうが生きようが構わないけど、こんな所で死ぬのは俺が許さないよ。死ぬんだったら俺の目の前でちゃんと死んでくれ"
"や、やだよ春。そんな事言わないで。死にたくない、死にたくないよ"
雪が俺の足元で泣きじゃくっていたあの日。俺が必死につなぎ止めたあの命。ボロボロにしてまで無理やり残した雪が、俺以外の人間を頼って生きているという事実。こういう事がないようにと、人間の底を見せて、限界まで絶望させたのに。
"私は一人で生きていきたいの"
"そっか"
俺と約束してくれたのに、なんでだ。
空腹のせいか何だか無性に腹が立ってくる。
「悪い、帰るわ俺」
「は?ちょっと待って、お好み焼きは?」
「腹減ってない」
そんな物じゃ満たされた無い。
俺は繁華街とは真逆の方を向き、速足で目的地へ足を進める。
「んもー!なんでそんなに雪ちゃんに固執するかなー!」
夏希のおどけた声が聞こえたが、俺の頭の中には、過去の雪の姿しか残っていなかった。
あれは俺のものだ。俺が見つけたものだ。
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