夢を見る

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それから数十分がたった。長時間、彼女の手首を握り続けたことで、私の手は真っ赤に染まり、茶色く汚れ、軽い痺れを起こした。ずっと同じ体制でいたからか、全身の節々が響き、麻痺を起こしているかのような感覚が体中に広がっていた。 そのぐらい私は疲れていたし、彼女もその後は静かに処置を受けた。 「なんでこんなことするんですか」 「なんでだと思います?」 「あの、私は本気で聞いてるんですよ」 「だから、なんでだと思いますか?」 向かい合って床に座り込んでいる私たち。彼女は私が巻き付けた引きちぎれた白色の手拭いに頬を擦り寄せる。まるで、母猫に甘える子猫のような仕草だ。 「先生は、どうして私の元へ戻ってきたんですか?」 「どうしてって、心配になったから」 「だからどうして?ひとりきりだと心配なんですか?」 彼女の瞳は、まるで獲物を挑発する肉食動物のように、勝気で精力に溢れていた。完全に喰われる。野生の勘が教えるように、私は無意識に後退る。 「先生はどうして私が死のうとしたのか、分かります?」 「自暴自棄になったから...」 「うーん、先生はそう思うんだあ」 どんどん上に被さってくる彼女。甘くとろけるような、糸を引く声は、私の脳を少しずつ、鈍くしていく。 「人は孤独で死ぬと誰か言っていたから」 あれ、そうだったか?この子の家に来た理由は、そんな理由だったか。 「孤独で人は死ぬと思いますか?」 「はい、だから貴方の家にきて、貴方の様子を...」 「私が死んだら悲しいですか?先生は」 「そりゃそうでしょう」 「本当ですか?先生は私が死んだら泣いてくれますか」 「そんなこと、分かりません」 もう距離を置かないといけないと考える自分も、彼女を1人にしたという罪悪感も、ぐちゃぐちゃに混ざりしまったようで、私という人間の欠片を、少しずつ彼女に奪われていくようだった。
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