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「そうなんだ、人は孤独で死ぬんだ」
彼女は私の言葉を噛み砕くように、さっき言った言葉を口にする。
「んは」
そして、彼女はあの日のように破裂したように笑った。
「何笑ってるんですか?」
「いや、先生は本当に良い人だなって思って」
「私は普通に大人として、当たり前のことを」
「先生みたいに物事を真っ直ぐ捉えて向き合ってくれる人、そういないですからね」
彼女は袖をまくってむき出しになっていた私の腕を掴む。その彼女の体温が、あまりにも冷たくて、全身の毛が逆立つような寒気を覚える。
「先生、先生のおかげで私は助かりました」
「いや、そんなこと…」
「先生が居なかったら私はきっと死んでました、こんな寒くてどうしようもない場所で」
ああ、ああまずいまずい。彼女の後ろに潜む何が良からぬ物が襲いかかってきているような感覚。あの日とは比べもにならない、そこまで行ってしまったら戻れないよと、本能が私の意識をはっきりさせる。
「先生が救ってくれたんですよ」
「いや、そうじゃなくて」
「だから、先生?私、先生のためにも、生きていこうと思います。先生が悲しむようなことは絶対しないですからね」
「いや、そうじゃなくて」
「先生、絶対この手離さないでくださいね。私が立派な大人になるまでは」
そして、私の手をとり、自分の頬を擦り合わせた。
「先生となら、頑張って耐えられるような気がするんです。こんな地獄でも」
彼女は私の目を見て、幸せそうに笑った。
まるで石になったようだった。あれだけの恐怖心も、彼女の目を見た瞬間消え失せて、無に帰した。もう抜け殻のように、自分の意思は無くなってしまった。
私は教師と生徒の垣根を越えてしまった。私はあの日、彼女の傍から離れられなかった。置いていけなかった。私は一人の生徒に深く干渉してしまったのだ。
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