13人が本棚に入れています
本棚に追加
駅の路地裏にあるカフェの店内は電気が点いていた。私ははやる気持ちを抑えながら店の扉を開けた。店の中に入るけど、どこか今までと雰囲気が違う気がする。
女性の店員さんが来る。「1名様ですか?」見慣れない店員さんに促されて奥のテーブルに案内された。そう言えば今まではオーナーさんしかいなかったのに今日は他にも店員さんがいるんだな、なんてことを考えながら席につく。
メニューを開くと沢山の料理名が並んでいるけど、あの『特製ナポリタン』が無い。そもそも『雨の日メニュー』自体が無くなっている。しばらく来ないうちに無くなってしまったか、今日はオーナーさんがいないとか?
「あの……雨の日メニューの特製ナポリタンって今日は無いんですか?」
思いきって案内してくれた店員さんに聞いてみたけど、首を傾げるばかりでピンときていないようだった。最近入った店員さんなのだろうか。
「少々お待ちください。店長呼んできますね」
そう言って店員さんは奥から男の人を連れてきた。どこかあのオーナーにそっくりだけど、年齢はずっと上に見えるその人は、私のところに来るなりこう聞いてきた。
「お客様、この店にいらっしゃるのは久しぶりでしょうか?」
何でそんな事を聞かれるのかは分からなかったけど、聞かれた質問に素直に答えることにした。
「ええと、最後に来たのは2週間前くらいです」
店長さんは大いに戸惑った表情を見せる。
「雨の日メニューは、今はもう無いんです。5年前まではあったんですけど。あと、この店ですが雨漏り工事で改修していたので2ヶ月ほど休業して、先週再オープンしたばかりなんてす。2週間前は営業自体していないはずですが……」
言っている意味が分からなかった。だって2週間前、私はたしかにこのお店に来ていた。ここで、ナポリタンとコーヒーを頼んでいたはずなのに。
最初のコメントを投稿しよう!