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顔を上げると、1人の男の人が立っていた。自分のさしている傘を私の方に向けている。私の傘はというと、横に転がっていた。
「あ、すみません。大丈夫です」
慌てて立ち上がって転がっていた傘を掴んだ。だけど男の人の視線は下の方に向いている。視線の先を追うとヒールの先が地面に突き刺さったままだった。私は慌ててそのヒールを地面から抜く。
「靴の踵、取れちゃったんですよね。よかったらちょっと休んでいきません? 応急処置くらいなら出来ますし」
そう言って男の人が指さした先にはカフェがあった。このままじゃ帰るのすら困難だったのと、人の優しさに少しだけ甘えたくなって私は男の人についていくことにした。
カフェに入るとその人は私を窓際の席に案内して、奥に入っていった。たぶん店員さんなんだろう。
「これ、直している間に履いてください」
そう言ってスリッパを出してくれた。私が靴を脱ぐと、壊れた靴とヒールの間に瞬間接着剤を塗ってくっつけてくれた。
「すぐ固まるとは思いますが、体も冷えちゃったと思うんで、良かったら何か飲み物でもいかがですか?」
そう言ってメニューを渡してくれた。中を見ると、たくさんのメニューが並んでいる中、下の方に『雨の日メニュー』というのが目に入った。
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