雨の日のナポリタン

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「あの、この雨の日メニューって何ですか?」  店員さんは笑顔で答えてくれた。 「これはですね、僕が作る特別メニューです。僕、この店のオーナーなんですけど、普段は別の仕事をしていて基本店にはいないんです。だけど雨の日はそっちの仕事が出来ないんでここに来るんです。折角なんで得意料理を食べてもらおうかってことで載せてます」  なるほど、オーナーさんだったのか。若く見えるからそんな風に見えなかった。再度メニューを見ると、雨の日メニューには『特製ナポリタン』とあって、その文字を見ただけで急にお腹が空いてきた。そういえば今日は頭痛のせいでろくにご飯を食べていないことを思い出した。  ……空腹を思い出した瞬間、お腹がぐぅ、と大きな音をたてた。 「よかったら食べてみますか? 僕の特製ナポリタン」  しっかりお腹の音を聞かれていて恥ずかしかったけど、お願いすることにした。  ナポリタンが出来るまで、ぼーっと外を見ていた。相変わらず雨は降り続いているし、頭痛も治らない。これからしばらくはまたこの頭痛に悩まされる日々が続くのかと思うとうんざりした。 「どうぞ、特製ナポリタンです」  そう言って目の前に置かれたナポリタンは、太麺で具は玉ねぎとピーマンとウインナーというシンプルなものだった。フォークで麺を巻き取って、具材と一緒に口の中に運ぶ。 「おいしい……これ、凄く美味しいです」  シンプルなナポリタンのようで、酸味が抑えられていてまろやかな口当たりだった。それでいてトマトの旨味はしっかり感じられる。懐かしいような、それでいてどこか高級な感じもする、不思議な味だった。
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