6人が本棚に入れています
本棚に追加
加賀愛美と不思議研究同好会と、都市伝説
ゴールデンウィークも終わり、日に日に暑くなって行く5月の中旬。
それは掃除の時間が終わった後のことだった。
最初はそんな話、していなかったはずなのに。
誰々くんがかっこいいとか、あの先生が出す宿題多いとか、そんな話に花を咲かせていたはずなのに。
気がついたらクラスメイトの女子たちの話題は、変わっていた。
「ねぇ、聞いた? 図工室の絵の話」
「えー、知らない。なにそれ」
「夕方、図工室の一番奥に飾ってある絵の前に立つと、絵が勝手の動き出すんだって」
「やだ、マジー?」
「マジマジ。でね、目の前に立った子を絵の中に取り込んじゃうんだって!」
「やだー! こわーい!」
5年2組での片隅では……いや、他のクラスの教室の片隅でもこんな感じの会話が繰り広げられていた。
その話題、止めなければ。
なるはやで。
英語の略字で言うと、エーエスエーピーで。
わたし・加賀愛美は、ゆっくりとクラスメイトたちに近づいて、
「あの……」
と声をかけた。
すると女の子たちは話しかけてきたのが『わたし』だと気づいて、不快だと言わんばかりに眉をひそめた。
けど、めげない。
「……都市伝説の話をするの、やめてもらえないかな……?」
ボソボソとした声でお願いする。
だけど女の子たちは一歩二歩と後ずさって、いやそうな顔をしながらわたしを上から下まで舐めるように眺めた。
「……呪いの日本人形が話しかけてきた」
「キモ」
そう言うと、どっちからともなく。
「行こう」
と、廊下へと逃げていってしまう。
呪いの日本人形とは、この学年でわたしのことを指す。
腰まである黒くて長くて毛先がパッツリ切りそろえられた髪。
二重ではあるけれど、やる気のない時にはあまり大きく開かない瞳。
そして、血色が良く赤くなりやすい頬と、鮮やかなくちびるの色。
この見た目と、友達がいない学校生活を送っていたせいで、親しい人に話しかける時、好感を持ってもらうみたいな話しかけ方を知らないので、結果、怖がらせてしまう。
わたしは本当に本当に、都市伝説の話題をやめてもらいたくて声をかけたのに……。
落ち込むわたしの耳に、さらにあの子たちの声が聞こえてくる。
「……あの子、ただでさえあの見た目なのに……入ってるクラブ聞いた?」
「フシギケンキュウ同好会でしょ。変人しかいないっていう……」
「そ。」
話題は都市伝説の話題から、わたしとわたしが入っているクラブの悪口に変わってしまった。
まぁ、都市伝説の話をしてもらうより、わたしや同好会の陰口を叩いてもらっていた方が、まだマシだ。
なぜなら。
この学校で噂された都市伝説は、具現化するからだ。
最初のコメントを投稿しよう!