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「わたしが『星謳いの魔女』だとしても、髪の毛を持っていかれちゃった……」
おばあちゃんの髪も長かったから、わたしもおばあちゃんのように髪を伸ばしていた。
おばあちゃんは言っていた。
髪の一本一本にも力は宿るのよ。
「だから……」
今のわたしは、おばあちゃんのタロットカードの力も呼び起こせない。
だったら。
わたしは、何を武器にしてあの本の都市伝説と戦うんだろう。
すると零くんは、手に纏わせていた風をふと止めて、こう言った。
「……だったら、自分の『心』に宿る力を使えばいいんだ」
「……こころ……?」
抽象的のような、だけど、的を得ているような言葉に、わたしは思わず胸を手に当てた。
すると、零くんはさらに続ける。
「そう、『心』だ。お前なんで、一人で本の都市伝説のところへ行こうとしてるんだ? 何か、守りたいものが『心』にあるからだろ?」
その言葉に、目から鱗が落ちた。
守りたいもの。
わたしが守りたいのは、クラスで気味悪がられていて、みんなのサポートしかできないわたしを受け入れてくれている『不思議研究同好会』という『場所』。
そして、わたしを受け入れてくれる、部長、史子さん、みももちゃん、英輔くん。
そんな大切な仲間と出会わせてくれた、水城先生。
「その、守りたいものを守りたいって強く願って、自分の中にある『星謳い』の遺伝子を呼び起こすんだ」
「……できる? わたしに……」
「できる」
不安に揺れたわたしにはっきり言い切った零くん。
その強い眼差しが、わたしの弱気な気持ちを吹き飛ばした。
今なら、できるかもしれない。
少し頭を下げると右の髪の毛先が、わたしの顎あたりを撫でた。
目を閉じて、胸に手を当てる。
そして呼びかけるのは、わたしの中に流れるおばあちゃんの血と、心に生きているおばあちゃんの面影。
おばあちゃん。
おばあちゃん。
わたしに力を与えて。
今度こそ、自分の弱さで何かを奪われることがないように。
わたしを必要としている人を、わたしは必要としている場所を、ちゃんと守れるように。
すると。
頭の中に優しい声が響き渡る。
懐かしい、大好きで尊敬するおばあちゃんが、わたしの名前を読んだ。
愛美。
あなたの気持ちはよぉく分かった。
大切な場所と、人を守りたいのね。
だったらまず『執着』を断ち切らないとね。
『願い』は過ぎると『執着』になるよ。
愛美。
あなたの『執着』は、なあに?
わたしの『執着』は。
おばあちゃんのような、誰かに寄り添える占い師になること。
そのために、おばあちゃんが伸ばしていたように、髪を長く長く伸ばしていた。
わたしの執着は、長い髪。
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