誰が行く、わたしが行く。

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 わたしは目を瞑ったまま、左側に垂れている長い髪を、肩くらいの位置でヘアゴムで括る。  そして零くんに声をかけた。   「零くん。わたしの髪を切って」 「え」 「……もう大丈夫……」  本当は少し、未練はあるけど。  自分の長い髪は好きだったけど。  今は占い師になるより、みんなを守る力が欲しい。    眉間にぎゅっと力を込めると、間をおいて零くんの声がする。   「……分かった」  突然。  風がヒュンと吹き荒れて、髪を切られる音もなく髪が揺れたのが分かった。  すると、胸の奥から光がいっぱいに溢れ出て、抑えきれなくなって――。  わたしは思わず目を開けた。  目の前には、髪の束を手にした零くんが見えた。  あの髪は、わたしの髪。  切っていいと言ったのはわたしだけど、いざ切られると、心にぽっかりと穴が空いたような気持ちになる。  少し俯くと両側の髪は顎先くらいの長さになっていて、同時にさらりと肩に落ちたのは、星のような瞬きを宿した薄い布。 「え」  こんなベールみたいなの、被ってたっけ?  わたしはそれを右手でつまんでみた。  すると、薄い布は夕方の日の光に照らされてキラキラと輝いた。 「え?」  ベールをつまんだ方の肩に、何か布がかかっている。  ベールを離して腕を広げると、紺色で後ろが長いフィッシュテールのマントを身につけていた。  マントの中は制服だったけど、水色が星空柄へと変わっている。  零くんがマントと帽子を身につけた時に制服の色が変わったのと、同じ。  もしかして、わたし。  覚醒した……?  ハッと顔を上げると、零くんが少し強気に笑っていて。 「やっぱり。長い髪に頼らなくても、覚醒できたじゃん」  そう言うとわたしの髪を、どこからともなく取り出した巾着袋にぎゅうぎゅうに詰め込んだ。  普通の女の子なら、声をあげて驚くところなのだろうけど。  わたしは言葉を失ってしまった。  すると零くんが、わたしのポケットバッグを指差した。   「これで多分、タロットの力も使えるようになったんじゃない?」 「……うん……」  言われてわたしは、ポケットバッグを一回ポンと叩いた。  すると、ポケットバッグから溢れた力なのか、キラキラとラメにようなものが空中に瞬く。  その星の瞬きを宿しながら、わたしはポケットに手を差し入れた。    わたしと零くんの気配を消すため、あなたの力が必要なの。  お願い、力を貸して。  念じると、そのカードはまるでわたしと手を繋いだかのように吸い付いて出てきた。  そのカードは『隠者』。  カードに描かれている隠者は、フートとマントで体を覆っている。  まるで、今のわたしたちみたい。 「……『隠者』よ。わたしたちの姿を隠して!」  わたしは手にしたカードをぎゅっと胸に寄せた。  すると。  さっきはうんともすんとも言わなかったカードから光が満ち溢れ、わたしと零くんの姿を透明にした。
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