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不思議同好会の活動
その日の放課後。
わたしはいつものように『不思議研究同好会』のメンバーと一緒に、学校の図書館にいた。
大きなテーブルにたくさんの本を並べ、下校時刻ギリギリまで同好会に仲間と話をする。
そんな時間が、わたしにとって、楽しい時間だった。
「さて、今日は何の話で盛り上がろうか諸君! 某はミステリーサークルの話で盛り上がりたいと思うぞ!」
独特な話し言葉で、部長である六年生・松原圭志さんが指差した本は、かなり年季の入ったフルカラーの本。
表紙には、『ミステリーサークル 宇宙からのメッセージ』と飾り気のない文字で書かれている。
「ミステリーサークル! 初めてききました!」
いろいろ教えて欲しいですっ。と声を上げたのは、四年生の稲川英輔くん。
明るくやわらない癖毛を揺らし、丸く大きい目をキラキラさせる彼は、同好会のマスコット的存在である。
「前世紀によくテレビに取り上げられてたのよね、ミステリーサークル」
私は生まれてないけど。と上品に微笑むのは、六年生の副部長・十文字史子さん。
小学生とは思えない上品さと可憐さで、この小学校のマドンナ的存在だ。
ミステリーサークルとは、田んぼや畑で栽培している穀物の一部が、円形に倒される現象と、その倒された跡のことを言う。
出現したての頃は、宇宙人の仕業だとか未確認飛行物体の降り立った後だとかいろんな憶測が飛んだららしいが……。
ミステリーサークルの話で盛り上がる部長と英輔くん、そして史子さん。
だが、そんな彼らに水をさす子がいたのだ。
わたしではない。
毛先がクルンとカールしたツインテールを揺らした四年生・横山みももちゃんだ。
「……ミステリーサークルってさ、人が作ったって証明されてなかったっけ……?」
その言葉に、ぴきんと場が凍った。
特に部長は本を持ったまま固まってしまっている。
そう。ミステリーサークルは人が作ったものであったとバレている怪奇現象だ。
だけど、その制作技術は年々上がっていて、今や芸術といってもいい。
ここはフォローしなければ。
「だ、だけどね、みももちゃん。ミステリーサークルって年々すごくなってるんだよ! ね、部長!」
と部長に振ると、彼はうんうんと頷いて口を開く。
「そう、ミステリーサークルは英知と技術の髄を集めた――」
「アマミホシゾラフグだって作れる」
そう、奄美群島の海に住む新種のフグのオスは、海底の砂の上に丁寧に模様を描き、メスを誘うのだという。
みももちゃんの一撃は、部長の心をさらに凍らせた。
同好会の集まりは毎回こうなのだ。
部長が世界の不思議を議論したくて提案すると、英輔くんと史子さんは乗ってくるが、みももちゃんがちょっと茶々を入れる。
そしてこの話が熱く盛り上がってきたなと思った頃合いを見て、わたしがこうやって締めるのだ。
「……結論。ミステリーサークルは、超常現象ではなく、芸術作品。それと、図書館ではお静かに」
いいね? と、ここでしか出すことのない本域の眼力で会員の顔を見回す。
すると、熱くなっていた部長とみももちゃんは、「はい」とおとなしくなる。
「さすが愛美ちゃんの眼力ね」
静かになった二人をよそに、史子さんはふんわりとわたしを褒めた。
すると、英輔くんも、
「ですです」
と、微笑んで頷く。
「愛美ちゃんは、普段からちゃんと目を開けてれば可愛いのにー」
「そうですよ。周りには愛美先輩の魅力が全く伝わっていません」
史子さんと英輔くんにそう褒められはするけど。
「……わたし、クラスどころか学年で気味悪がられてるからなぁ……」
へらへらと苦笑して、また目を細める。
わたしは、クラスでは極力目立たないようにと心がけている。
なぜって、多分わたしはクラスメイトたちが言う『普通』ではないから。
だけど、このクラブでは自分を偽らなくてもいいから、本当に居心地がいい。
と、突然。
少し拗ねたように口を尖らせながら『ミステリーサークル』の本を眺めていた部長が、急に椅子から立ち上がった。
そして、天を見上げると、さっきまで発していた声と比べ物にならないほどいい声で、言葉を紡ぎ始めたのだ。
「……夕焼けに染まりしその部屋で、絵画に描かれた影の戦士、生贄の前に姿を現すだろう……」
不思議研究同好会部長、六年一組・松原圭志。
普段はオカルトオタク。
その実、的中率百発百中を誇る予言者であった。
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