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きっかけ
一年生の時から都市伝説の噂は聞いていたけど、わたしが都市伝説に初めて遭遇したのは、小学校三年生の時。
どこかのクラスで、トイレに日本人形の霊が出ると噂になったのだ。
その日のお昼休み。
あと数分で授業が始まるという時に何気なく入ったトイレでわたしは、高学年の女子に霊と間違えられた。
と言うか、わたしが個室から出ると同時に、霊も出たのだ。
確かに、日本人形みたいなのが個室に二人も出てきたら、そりゃ誰だってびっくりする。
高学年の女子に双子の霊が出たと勘違いされたと同時に霊障か何かで、わたしは個室に閉じ込められてしまった。
鍵をガチャガチャしても開かない鍵。
大きな声とかあまり出したことがないから、助けてって言っても届かない声。
諦めて和式便器を挟んでしゃがみ込む、わたしと、わたしに似た、霊。
授業が始まって、何分経っても探してもらえないわたし。
わかってた。
わたしはクラスメイトにも、先生にも嫌われてる。
誰も探しになんてこない。
うつむくわたしが前髪の隙間から前を見ると、向こうも同じようにわたしを見る。
そして目を逸らすと、向こうも目を逸らす。
だけど向こうは時々わたしを見て、笑ってた。
『あなた、一人ぼっちで可哀想。誰も助けに来てくれないのね。わたしが変わってあげようか?』
そう言いたげに笑っているようで、わたしは急に怖くなって立ち上がってドアを叩いた。
確かにクラスでは一人ぼっち。
だけど、家に帰れば大好きな家族がいる。
助けて。
わたしはここ。
ここにいる!
怖くて怖くて声が出なかった。
けど、必死に叩いた。
すると、トイレの外から派手な音が聞こえ始めた。
その音は徐々に大きくなって、トイレの天井が急に暗くなった。
見上げると、ポニーテールのお姉さんが個室を覗いていて。
お姉さんは一瞬、同じ姿かたちのわたしと霊を交互に見たけど、わたしに笑いかける。
「やっぱ圭志の予言通りだった。アタシたちが助けてあげるからね!」
霊じゃなく、わたしに向かって言ってくれていた。
それがすごく嬉しくて、泣きそうになってしまう。
そんなわたしを見て、お姉さんはそのまま扉の淵に足をかけると個室へと飛び降りると、霊からわたしを守るように背中に隠してくれた。
「この子に成り代わろうとしていたところまで、お見通しなのよ!」
お姉さんは霊に向かってそう言い放つと、懐から刀を抜くと一瞬でトイレの鍵を斬り壊して、わたしを個室の外へと逃がしてくれた。
個室の外には、あと二人上級生がいた。
穏やかに微笑むふんわりヘアのお姉さんと、キリッとした表情のショートカットのお姉さん。
「史子、その子に催眠術よろしく」
「はぁい、琴ちゃん」
背中にお姉さんの声を聞き、わたしはふんわりヘアのお姉さんに手を引かれてトイレに出た。
「友梨はサイキックで、わたしと一緒にこいつ弱らせて」
「了解」
「こいつ弱らせたら廊下に出すから、和慧は除霊の準備しといて!」
「おう、いつでもこいや!」
「清明は結界しっかり貼っててよ!」
「分かってるよ!」
ハキハキとした声がトイレから聞こえ、その都度仲間と思われる人が返事をしている。
一人は短髪でキリッとした顔つきのお兄さん。お坊さんがかけている袈裟の身につけていて、もう一人は少し優しそうなお兄さん。五芒星か書かれたお札を持っている。
この人たちは一体、何者なのだろう。
そう思っていると、わたしと手を繋いでいるお姉さんが、声をかけてきた。
「怖かったわね。今からあなたの記憶を操作させてもらうから、もう安心よ」
そう言いながらお姉さんはわたしの額に手を当てようとした。
わたしはその手を避けて、お姉さん、そしてお兄さんたちを伺う。
「……あ、あの。……見届けちゃ、だめですか……?」
瞬間的に思ったんだ。
多分、この出来事はわたしにとってとても意味があることなのだと。
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