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『……お前は…… 『星謳いの魔女』……』
和綴じの本から影の手をうねらせた本の都市伝説は、わたしの姿を認識するなり驚いたような声を発する。
だけど驚いたのは、本の都市伝説だけではない。
わたしの後ろ姿を見て、梨花さんが驚いて息を呑む音が聞こえた。
『あんた、あの長い髪はどうしたんだい?』
本の都市伝説に問われ、わたしは星のブーメランを構えながら答える。
「切った」
すると、本の都市伝説は『切った!?』とわたしの言葉を反芻するなり、ハッと笑う。
『……あの長い髪は、ルネの真似をしていたんだろう? それを惜しげもなく「切った」だなんて、バカな子だね』
「……っ!」
嫌味ったらしい物言いに、わたしはムッと本の都市伝説を睨みつけた。
今も、あの髪に未練がないと言ったら嘘になる。
だから余計に、本心を突かれてカチンときたのだ。
けど、そんなわたしの心を冷静にさせたのは、わたしの背を見ているであろう梨花さんだ。
「……まさかあんた、うちのクラスの呪いの日本人形……? ……呪いの日本人形が、呪いのこけしになってて、ウケるんですけど……。それに何、その恰好……かわいいつもり……?」
こんな恐怖の中にいても、梨花さんはわたしをバカにする。
そう悪態をつかなければ心が折れてしまいそうだという気持ちは、わからないでもない。
わたしは本の都市伝説を見据え、梨花さんを振り返ることなく言う。
「……早く逃げて……!」
何も言わず立ち上がって逃げてくれれば、それだけでいい。
だけど、梨花さんは声を振るわせながら「はぁ?」と声を上げた。
「……あんたに指図される筋合いないんですけど。それに、あんたに庇われたなんてみんなにバレたら、恥ずか死ねる――」
わたしは梨花さんの言葉を遮って、振り返った。
「……あいつが危ないやつだって、わかんないのっ!?」
「っ」
わたしに叱られて、梨花さんは肩をびくりとあげて目を丸くした。
バカにしていたクラスメイトに助けられる惨めさを、そんなに味わいたくないのか。
その気持ちは、わたしにはわからない。
「……選んでいいよ。わたしに助けられてみんなに笑われるのと、あの都市伝説にやられて怪我するの。どっちがいい?」
この都市伝説にやられて、みももちゃんと英輔くんは、怪我をした。
「わたしは、あなたに怪我してほしくないっ」
だってわたしは、この学校の人々を都市伝説やあやかし、七不思議から守る『不思議研究同好会』のメンバーなのだから。
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