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それは部長に、史子さん。
みももちゃんに瑛輔くん。
四年生の二人は包帯を巻いたり絆創膏を貼ったりと痛々しかったけど、みももちゃんのジト目に仏頂面、英輔くんの可愛らしい笑顔はいつも通り。
部長の自信満々な表情も、史子さんの優しい笑顔もいつも通りで、わたしはグッと泣きそうになってしまった。
「……みんな……」
「よかったわ、間に合って」
史子さんはそう言うと、わたしの隣でぐすんぐすんと泣いている梨花さんへと歩み寄った。
「まずはあなたの心の傷を癒さなくっちゃ、ね♪」
史子さんの優しい声にふと顔を上げた梨花さん。
そういえば、梨花さんは史子さんのこと、嫌いではなかったはず。
史子さんは梨花さんに優しく微笑みかけると、彼女の額に広げた手のひらを当てた。
催眠術をかけるのだ。
「さっきまでのことをあなたが思い出すのは、一週間後……一週間後……はぁい!!」
優しい声で誘導して、掛け声一発。
梨花さんの体から急に力が抜け、その場へと倒れ込んでしまった。
「これで安心ね」
そう言って梨花さんから離れた史子さん。今度は、泣きそうなわたしの頭を撫でてくれた。
「よく頑張ったわね、愛美ちゃん。実はね、お昼休みに二人で会っている時に、圭ちゃんが予言したの。『占い少女覚醒し、書架にてメシアと共に宿敵と相対する』って」
「それを先輩方は、すぐさま僕たち四年生に伝えてくださったんです」
英輔くんが言うと、みももちゃんと部長も、
「活動停止されてたけど、そんなの知るかって感じ」
「大事な愛美氏の大ピンチで大チャンス。なので集合してしまったで候、てへぺろ」
と、いつもの調子で言う。
いや、流石に決まり事は守らなきゃ。
いつもならそう言って、常識人みたいなことを言うのがわたしの役目だけど、今日はみんなに感謝している。
「……みんな、ありがとう。そして、わたしのせいでごめんなさい」
わたしは立ち上がると、みんなに頭を下げた。
すると、部長がプリッと頬を膨らませる。
「某、水城氏からコッテリと搾られたで候っ」
だけど、部長の口の端はいたずらっ子のように上がっている。
「『占い少女の髪を喰らい、彼女の心と夢を傷つけし古書、この学校のありとあらゆる本を食い尽くすであろう』なんて予言、阻止したかったのよ。わたしも圭ちゃんも、みももちゃんも英輔くんも」
史子さんが言うと、部長は頬を元に戻して照れくさそうに指の背で鼻を擦った。
「皆、愛美氏の仇を取りたかったで候……。よくぞ覚醒してくれたで候」
「部長……」
部長の長い前髪の奥の目が、優しくわたしを見つめたので、さらにうるっときてしまう。
そんなわたしの傍で、みももちゃんは魔法少女へと変身した。
「愛美ちゃん、泣くのは後。都市伝説を倒すのは、あたしたちの役目だかんね。まだ部外者に手柄は持って行かせないよ」
ゆるい口調に気合いが入るみももちゃん。
だけど、衣装が汚れている。
英輔くんも、肌の色が汚れている。
前の戦いの傷が癒えきってないからだ。
この同好会でみんなの傷を癒せるのは、わたしのタロットカードのだけ。
わたしはポケットバッグを叩くと、空でラッパを吹く天使が描かれた『審判』のカードを引き寄せる。
それを胸に当てると、二人の頭上に光の粒がキラキラと降り注ぎ、傷を癒やし切った。
「ありがとうございます、愛美さん」
「これで勝てる」
二人なりのお礼に、うんと頷く。
けど急に、図書室内から大きな音が響いてきた。
そう。
零くんが一人で、あの本の都市伝説と戦っているんだ。
「英輔くん、これ持ってて」
わたしはいつものように、瑛輔くんに『隠者』のカードを差し出した。
これで、人払いはできるはず。
すると瑛輔くんは、自分の周りに小さな霊を呼び出し、わたしのカードを受け取った。
「はい、お預かりします。人払いはお任せください」
心強い表情にわたしもひとつしっかりと頷くと、みももちゃんがわたしの隣に立つ。
「あたしも、愛美ちゃんといく。三人いれば、不足はないでしょ?」
いつも少し気だるげな表情が、キリッと引き締まって見えて。
わたしは、みももちゃんにも頷いた。
「心強いよ。みももちゃん」
「もー、ジューシィピーチだって言ってんのに!」
いつものやりとりが、嬉しい。
けど今は、自分たちができることをしていこう。
「今回の活動内容は『図書室の本の都市伝説』の討伐リベンジ。諸君、各々抜かりなく!」
部長の音頭に皆頷きあって。
わたしはジューシィピーチと共に再び図書室へと突入していく。
仲間と一緒なら、もう大丈夫。
わたしの心でひとつ、星がきらりと輝いた。
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