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決戦、本の都市伝説
図書館では走っちゃいけないのだけど、今はそうも言っていられない。
わたしとジューシィピーチが、零くんが本の都市伝説と戦っている一番奥の本棚を目指していたその時。
ボウッと音がして、焦げ臭い匂いが室内に漂った。
わたしは「もしかして」と息を呑んで本棚の通路へ向かうと、右手を天井に向けた零くんのてのひらの上で、何かが燃えていた。
あれは、わたしの髪が入った巾着だ。
本の都市伝説はそれが何なのか、何が入っていたのか分かったようで。
『おおお、おのれ。よくも、よくも……、『星謳いの魔女』の髪をぉ……!』
怒りに震えるような声を発し、影の手をわなわなと震えさせた本の都市伝説は、腕をひゅっと伸ばすと零くんを張り手で引っ叩いた。
ぱんっ。
と鋭い音がして、零くんは衝撃で横の棚にぶつかってしまい、呻き声をあげて倒れ込んでしまった。
あまりにも素早い攻撃は、都市伝説の力が強いと言うことだろう。
『あまりアタシを怒らせるんじゃないよ!!』
本の都市伝説はそう叫ぶと、影の腕が黒い獅子に変わった。
あの獅子で、零くんを襲う気だ!
「零くん!!」
彼の名を叫んだ、その時。
影の獅子へと駆け出したのは、ジューシィピーチだった。
「やぁーーっ!」
床を蹴って飛び上がると、獅子に向かって強烈なキック。
獅子は突然現れたもう一人の魔法の使い手の物理技に、壁へと吹っ飛ばされてしまった。
どぉん、と壁に激突する獅子。
「あいつはあたしに任せて、愛美ちゃんは、あの人を」
着地しても獅子を睨むジューシィピーチの頼もしい横顔に、胸が暖かくなる。
やっぱり仲間って、いいな。
「ありがとう、みももちゃん」
「……ジューシィピーチ!」
ジューシィピーチのツッコミを背に、わたしは本棚にぶつかった零くんに駆け寄って、その体をそっと支えた。
「零くん!」
零くんは気を失っていたけど、わたしの呼びかけに顔を顰めてゆっくりと目を開けた。
「零くんっ! 大丈夫?」
「……大丈夫……。ちょっと気を失っただけ……」
零くんは眉間に皺を入れながら頭を振ると、同じように壁にもたれかかっている本の都市伝説を見据えながらゆっくり立ち上がった。
そして腕に風を纏わせながら、体勢を立て直した本の都市伝説を睨みつける。
ジューシィピーチも可愛い顔をムッと怖くさせて本の都市伝説を見つめていたが、ピッと私の方に顔を向けた。
「愛美ちゃん。あいつどうする? 燃やす?」
「いやいや、流石に図書室で火はダメ。他の本も燃えちゃう」
と言ったところで、わたしは零くんを見た。
「零くんも。さっき私の髪燃やしたの、本当はダメだからね」
「……ごめん……。あの方法しか思いつかなかった」
零くんは本の都市伝説から目を離さずに謝ると、矢継ぎ早にジューシィピーチが提案する。
「じゃぁ、濡らす?」
「他の本も濡れちゃうよ」
「じゃぁどうすんの? 光で消えてくれるようなやつじゃないよっ」
ジューシィピーチの駄々っ子のように揺れる声に、わたしも焦り始めていた。
本の都市伝説を何とか外に出せればいいけど、図書室は校舎の二階にある。
もし外へと誘き寄せるには、みんなが倒れている廊下を通って階段を降りなければならなず、とても危険だ。
それにあの都市伝説は、あの場所から動いていない。
まるで、無実の本たちを盾にしているようだ。
もしくは、あの場所から動けずにいるの?
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