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本の都市伝説は自分のページをパラパラとめくり、ケタケタと笑い始めた。
『ライオンは不意打ちでやられちまったけど、次はそうはいかないよ。何がいいかねぇ、蠍の毒であんたたち三人、潰してしまおうかねぇ』
そう言いながら本の都市伝説は影の腕をみるみるうちに蠍の尻尾へと変化させた。
尻尾の先端にある毒針からは、黒い液体が滴っている。
あれに刺されたらすごく痛いだろう。
そしてあの毒に侵されたら、そうなってしまうか見当もつかない。
すると零くんが真剣な表情でぼそりと呟いた。
「……切り刻むしかない」
「え、どういうこと?」
わたしが尋ねると、零くんは本の都市伝説の動きに注意しながら言う。
「燃やせない濡らせないなら、切り刻むしかない。俺は風で、そっちの魔法少女もその手の魔法で」
「んもう、あたしはジューシィピーチだって言ってんのに……」
そう言いながらも手にロッドを出現させて、やる気満々のジューシィピーチ。
顔に「勝機あり」と書いてある。
わたしも、そう言う魔法があればいいんだけど。
と、思った矢先。
「愛美は……武器を持っているタロットカードはないのか?」
零くんに尋ねられて、わたしはハッと顔を上げた。
武器を持っているタロットカードは何人かいるけど、わたしの頭には一番真っ先にあのカードが思い浮かんだ。
大きな鎌で、一振りで相手を薙ぎ倒す人がいる。
わたしは早速ポケットバッグを叩き、念じた。
今、あなたの力が必要なの。
あの本の恨み辛みを断ち切るために。
わたしが生まれ変わるために。
どうか力を貸して。
「『死神』よ、その大鎌をわたしに――」
貸して。
そう言おうとしたわたしは背筋が急に凍ったのを感じた。
「愛美、後ろ……!」
零くんが息を飲み、ジューシィピーチも目を丸くして驚いている。
本の都市伝説さえ、驚きで動きを止めていた。
わたしがゆっくりと振り向くと、そこに立っていたのは骸骨の体に黒い鎧を纏う騎士。
タロットカード13番『死神』。
な、なんで?
今まではこんな人の姿を形取って、タロットカードが力を見せてきたことなんて、ただの一度もなかったのに。
骸骨の黒騎士は戸惑うわたしたちをよそに、まるで背中から抱きしめるようにわたしの前に腕を回すと、その手に持つデスサイズをわたしの手に握らせた。
重いものだと思って身構えていたら意外と軽くて、さらに驚く。
まるで、わたしのための武器だと思った。
「……これで、自分の運命を切り拓けって言ってるの?」
腰を捻らせて、騎士を見上げるけど、彼は何も言わない。
だけど、不思議と怖いと思わなかった。
だってこの死神は、おばあちゃんからタロットカードを譲り受けたその時から、わたしのそばにいたのだから。
わたしはデスサイズの柄をしっかり握って、騎士に笑いかける。
「……ありがとう。借りるね」
骸骨の騎士は表情を変えない。
だけどわたしには、彼は力強く微笑んでいるように見えた。
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