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「フレッシュピーチ、チュアクション! 夏風よ、魔女の鎌に加勢せよ」
ステッキを掲げたジューシィピーチがセリフを言えば、ステッキの先についた宝石から渦を巻いて現れたのは湿った熱い夏の風。
ジューシィピーチに続いて零くんもわたしの武器を指さすと、カラッとした冷たい北風ような鋭い風が鎌の部分に絡みついた。
夏の熱波と、冬の寒波を宿した風は、化学反応のようにぐるぐると渦を巻く。
さっきより重く感じるデスサイズ。
けど、負ける気がしない。
『『星謳いの魔女』の孫よ。わたしと一つにおなり。わたしにその名を返して頂戴?』
本の都市伝説はわたしを取り込もうと、腕を大きく広げた。
その胸元にはぽっかり空いた何もない世界が見えるけど。
「これはおばあちゃんの二つ名。そしてわたしの二つ名。あなたの言いなりにはならない!!」
わたしは、まるで自由意志を持つかの如く大きく振り上げられた大鎌を手に駆け出すと、一閃。
魂を刈る死神のように、本の都市伝説を真っ二つに切り裂いた。
『おおおおおおお!』
ただ真っ二つに切り裂くだけではない。
鎌に纏った二つの風が、本の都市伝説の少し黄ばんだページの全てをズタズタに切り裂いていく。
『いやだ、アタシは死してなお、ルネの孫娘にも負けるなんて!!』
本の都市伝説は最初こそこんな断末魔をあげていたが、自分の死期がもうすぐそこだと悟るやいなや、影の手で零くんを指差した。
『……『古の魔法使い』。あんた、この学校に現れる都市伝説や妖怪の元締めを知りたがっていただろう……ヒントやるよ』
「……なんだ」
『そいつは五年前の春にこの学校にやってきた』
五年前の春。
それは、わたしが入学した年。
本の魔法使いが遺す言葉に、その場にいる全員が注目する中、今度はその黒い指がわたしに向いた。
『……あんたには『呪い』をあげるよ、『星謳いの魔女』』
「……呪い?」
わたしはまゆをひそめて尋ねると、本の都市伝説は「そう」と続ける。
『呪いさ。あんたはこのさき、『大きな真実』の前に打ちのめされるだろうね。はーはっは、はーっはっは――』
本の都市伝説の高笑いは途中で途切れ。
図書館の床の上に残ったのはボロボロの本一冊。
わたしに呪いをかけた本の作者が誰だか知りたいとわたしが手を伸ばす一瞬で、本はまるでシュレッダーにかけられたみたいに粉々に崩れ去ってしまった。
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