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vs 図工室の騎士
図書館の片隅で『黒衣』と呼ばれる装束に着替えたわたしたちは、廊下を駆け抜け図工室へとやってきた。
学校内にはまだまだ児童も多く、先生たちも廊下を行き交うが、誰も私たちに気を止めない。
なぜなら、先頭を走ったわたしが、タロットカードの『隠者』を口に咥えていたから。
わたしは同好会のみんなと比べたら特別な能力はないけど、唯一できることがある。
それは、占い道具の力を借りること。
例えばこの『隠者』のカードは、私たちを極力目立たないようにしてくれる。
図工室へと飛び込んだわたしたちの目に飛び込んできたのは、今まさに絵画の中からぬっと現れた騎士と、その前で怯える男子児童の姿だった。
室内は西日がさんさんと差し込み、騎士と児童の影がぐっと伸びる。
まさに、部長の予言通り。
夕焼けに染まりしその部屋で、絵画に描かれた戦士、生贄の前に姿を現す。
そんな光景だ。
わたしたちは頭巾から垂れた顔を隠す薄布をめくると、お互い顔を見合わせて頷き合う。
そしてみんなが、みももちゃんを見た。
「みもも氏、頼んだで候」
予言者モードが解けて、すっかり元に戻った部長が声をかけると、みももちゃんは心底嫌そうな顔をした。
けれど、
「……仕方ないなぁ」
と呟くと、胸元からネックレスに通されたペンダントを取り出した。
それをピッとチェーンから外すと、あっという間に魔法少女が持っているようなロッドへと変わる。
みももちゃんはロッドを手にそっと目を閉じると、さっきまでのゆるゆるぼそぼそ声が一変。
「ミモモモモモモモモノウチ、チェンジング、マイ、ライブ!」
呪文を唱えれば、みももちゃんの黒衣が一瞬で消え去り、次々にセットされていく魔法少女衣装。
眩い光が彼女を包み込んだその一瞬で、さっきまでダルそうにしていたみももちゃんが、可愛らしい魔法少女『ジューシィピーチ』へと変化した。
髪も瞳も、可愛い桃色。
ふりふりひらひらの衣装のピンクは、主人公色だ。
「……いやぁ、いつ見てもすごいなぁ。みももちゃんの変身シーン……」
わたしが感心しながら呟くと、史子さんや英輔くん、部長までもうんうんと頷く。
「魔法少女、憧れるわよねぇ」
「とっても可愛いですよ、みももさん」
「エモいでござる!」
みももちゃん……いや、ジューシィピーチは誉め殺しに足をだんだんと鳴らした。
「ほめても何にも出ない!」
そう言うとピーチはじとりをわたしを見据える。
「愛美ちゃんはわたしのサポートだからね!」
「はいはい、わかってますよ」
わたしはそう返事をすると、頭巾の薄布を下ろして顔を隠した。
そして、ポケットに忍ばせているタロットカードの束を、ぽんぽんと叩く。
わたしがこの同好会にいられて、みんなのサポートができるのは、おばあちゃんから譲り受けたこのタロットカードのおかげ。
今日も、みんなを支えることができますように。
絵画の騎士に襲われそうなあの子も、助けられますように。
わたしは隠者のタロットカードを手に取ると、部長と史子さん、英輔くんを振り返る。
「三人は、被害者と通りすがりの人の対処をお願い」
三人はしっかり頷いてくれて、部長が開戦の音頭をとる。
「今回の活動内容は『図工室の絵画の都市伝説』の討伐。では諸君、各々抜かりなく!」
その言葉を合図にわたしは、図工室の扉を派手に開け放った
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