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絵画から現れた騎士は、目の前の怯える男子に向かい大きな剣を振りかざした。
男の子がぎゅっと目を瞑ったそのタイミングで、みももちゃんが図工室へと踏み込んだ。
「待ちなさい!」
すると、都市伝説と男の子がこちらを見た。
「あんたが誰に呼ばれたかは知らないけれど、都市伝説なら切り捨てる! 魔法少女ジューシーピーチ。あんたを闇に、かえしてあげる!」
バン! と決めポーズを取るみももちゃん。
騎士の都市伝説の注意が彼女へと移った隙に、わたしは隠者のカードを手に、標的の男子の元へ走った。
「こっち!」
男子に顔を見せないまま、わたしは呆気に取られている彼の手を引いて図工室の扉へと走り出した。
『ワレノネムリヲサマタゲルモノ、ジャマスルモノ、ミンナ、タオス。タオス』
後ろから聞こえるカタコトの野太い声は、絵画の騎士の声だろうか。
手を引いている男子が騎士の声を聞き身をすくめる。
「足、止めないで」
わたしは彼が立ち止まらないように目一杯走って扉まで辿り着くと、廊下にいた史子さんに彼を託す。
「史子さん。あと頼んだ!」
史子さんはわたしの代わりに男子の手を引くと、顔を隠していた薄布をめくって、その可憐な顔をあらわにした。
そしてにっこり微笑むと、男子の額に手を当てて……。
「さっきまでのことをあなたが思い出すのは、一週間後……一週間後……」
と声をかける。
すると、史子さんの瞳の奥で渦巻が生まれはじめた。
渦巻きはぐるぐると回り始めると同時に、男子の体が力を無くしたように崩れ落ちた。
あと一押しで、催眠術が掛かる。
史子さんはその手応えを最大限に感じ取って。
「ハァイ!!」
と野太めの大声を出した。
可憐な見た目とは裏腹に、かなりの大声。
それを未だ聞きなれない英輔くんが少しビクッとした。
英輔くんといえば、周囲の浮遊霊を自分の近くにおろして周囲の監視をしていて、よくよく目を凝らしてみると、英輔くんの周りには常に可愛らしい顔の浮遊霊がふよふよと浮いている。
この霊たちは皆、図工室の近くに人が近寄る気配がないか監視しているらしい。
「英輔くん」
わたしは英輔くんの元へと駆け寄ると、手にしていた『隠者』のタロットカードを手わたした。
まぁ本来は、催眠術に掛かった男の子を介抱している部長に手渡すのが一番いいのだけど、予言者モードが切れた彼はまあまあ普通の人。
今、能力を使っている人と比べたら、『能力負け』を起こして倒れてしまいかねない。
「このカード持ってて。『隠者』がこの周辺の異常を隠してくれるから」
「え、僕がカード持ってて大丈夫なんですか?」
カードの効果を切れてしまうことを不安に思ったのか、薄布の奥の声が不安げにゆれる。
その不安を拭ったのは、史子さんの優しい声。
「大丈夫よ。愛美ちゃんのカードは強い力を持ってるんだから」
去年度もわたしと一緒に活動をしてきた史子さんのお墨付きに、英輔くんも安心してくれたようで。
「わかりました。お預かりします!」
と、カードを懐にしまう。
そして薄布をめくり、小動物のような可愛らしい顔を覗かせた。
「愛美さん。ここは大丈夫ですので、みももさんのところ行ってあげてください!」
図工室内は戦闘が始まったらしく、衝撃音が響き始めていた。
絵画の騎士は大人のように大きかった。
小学四年生のみももちゃんだけでは倒しきれないかもしれない。
「……わかった。廊下はよろしくね」
わたしはそう返事をすると、再びタロットカードが入ったポケットをポンと叩いて、図工室の扉を開け放った。
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