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図工室内では騎士とみももちゃんが激しく戦っていたが、騎士がみももちゃんを襲うべく、大きな剣を振り上げたところだった。
「っ、みももちゃん!!」
わたしはポケットから取り出したタロットカード二枚を手に持ち、かけだすと、騎士とみももちゃんの間に割って入る。
そして騎士に向けてカードを掲げると、わたしの手の先に広がったのは、満月のように輝く銀色のシールド。
……と同時に、騎士か振り下ろした剣の衝撃が満月のシールドに加わる。
が、なんとか持ち堪えたのは、シールドを作った『月』のカードと一緒に出した『力』のカードのおかげ。
わたしは「えぇい!」と声を上げながら盾に受けた騎士の剣を押し返す。
「みももちゃん、大丈夫!?」
騎士を見据えながら、後ろにいるみももちゃんに声をかけると、不機嫌な声が聞こえた。
「……みももちゃんいうな! ジューシィピーチ!」
変身中は魔法少女に徹するみももちゃん。
四年生に進級し、この活動を始めて二ヶ月もたっていないのに、意識が高い。
だけど今は『影の騎士』に集中しなくっちゃ。
キラキラと輝く満月のシールド越しに見据えた『影の騎士』は、窓から差し込む西陽を背にまた剣を振り上げた。
『……コムスメ、ドモメ。ワレノジャマヲ、スルナ!』
腹の底から響いてくるような声。
けどさっきよりも、その影が薄くなっている気がするし、騎士の動きが鈍っている気がする。
なんでだろう。
――もしかして。
と思っていると、わたしの隣にみももちゃん――いや、ジューシィピーチが並んだ。
「愛美ちゃん、どうしようあいつ強いかも……」
ジューシィピーチは敵を睨みながらも、わたしに話しかける。
ちらとジューシィピーチを見ると、髪型が少し乱れ、衣装も埃や絵の具で汚れていた。
彼女が戦えるのも、あと少しの時間しかない。
だったら、一か八かのこの作戦で、一気に倒さなくっちゃ。
「……みももちゃん。わたし、突破口見つけたかも」
ジューシィピーチにだけ聞こえる声で囁くと、彼女は「え」と驚きの声をあげた。
「どう言うこと?」
「『影の騎士』、満月のシールドに怯んでるように見えない?」
わたしの言葉を聞いたジューシィピーチは、『影の騎士』をしっかり見据えると、
「確かに……」
と納得の声。
わたしはタロットカードが入ったポケットに手を入れると、次に引きたいカードを探り当てながら、続ける。
「わたしがここから別のシールドで騎士の影を消すから、その隙にみももちゃんは必殺技を……!」
「……わかったけど、今のあたしはジューシィピーチっ!」
わたしの作戦を理解してくれたジューシィピーチは、図工室の床を蹴り上げて飛び上がった。
その一瞬。
わたしはポケットから一枚のタロットを取り出して、『影の騎士』に掲げた。
すると、カードから満月とは比べ物にならないほどの強く眩い光が騎士を襲い。その黒い影を消し去っていく。
光が強ければ強いほど、影は増すもの。
だったら、廊下側からも『太陽』の光を照らして、騎士の動きを止めればいいんだ。
「みももちゃん、今!」
わたしの声に合わせて廊下側の壁を蹴って宙返りしたジューシィピーチは、太陽のシールドの前に姿を現した。
手には魔法少女がよく持っているロッドが現れる。
「フレッシュピーチ、チュアクション! 朝日よ、邪悪な者を燃やす聖なる光を放て!」
呪文とともにロッドの飾りがキラキラ光ったかと思った一瞬。わたしの太陽のシールドと同じくらい眩しい光が、あっという間に騎士を包み込んでいく。
騎士は咄嗟に差し込んだ太陽の眩しさに、手を自分の目の前に出して光を避けようとしたけど。
『オォォォォォォ……!』
三つの太陽の光にのまれて跡形もなく消え去り、騎士が飛び出してきた絵画は、絵画上の主役を失ってただの風景画と変わってしまった。
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