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二人は食事を終えてレジへ向かうところだった。
「私も行かなきゃ」
立ち上がる私を隼人が止める。
「奥さんはここまでにしときな。俺が追いかける。でも大丈夫だ。きっと、脩二君は一人で宿にチェックインするはずだ」
「……嫌な予感しかしないんだけど」
「こう言ってはなんだけど、脩二君は亜依のタイプじゃない」
隼人は少し笑って二人を追って出て行った。
半分以上残った冷製パスタの横でアイスコーヒーの氷がカラリと音を立てた。
店を出て、駅前のビジネスホテルを眺める。温泉好きの脩二はきっと、大きな温泉のある旅館やホテルを選ぶはずで、ビジネスホテルには泊まらないだろう。ホテルの一室から駅を見張る探偵姿の自分を想像して苦笑する。
「帰ろう」
駅には温泉地へ向かう観光客でごった返していた。その中に、電車の中で私が足を踏んでしまった女性がいた気がした。鋭く恨みのこもった目をしていた。いや、きっと気のせいだろう。ああいう目をした女は何処にでもいると思い直した。切符売り場の広場も待ち合わせ場所になっているのか沢山の人で賑わっていた。
「痛っ」
どんと誰かに背中を体当たりされた。
「今度こそ、間違わない」
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