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顔を上げるとナイフを手にした背の高い女が私を見下ろしていた。
「亜依さん?」
遠くから私と亜依を呼ぶ声がした。ナイフから赤い血がポタリと垂れた。
ーー大騒ぎして、けろっとした顔で帰って来るんだーー
亜依は恍惚とした表情で笑みを浮かべ、ナイフを捨てると、隼人を振り切り脩二の胸に飛び込んで行った。
「脩二、助けて」
亜依の喚く声と警備員達の緊迫した声が消えゆく意識の中で聞こえた。
病室で目を覚ました時、脩二は私の手をしっかりと握っていた。
「良かった本当に」
脩二の目は真っ赤に腫れていた。
「背中は、痛むか?」
やはり、背中を亜依に刺されていたのだ。
「脩二……、私」
「そんな顔しないでくれ。隼人さんと別れると言う亜依を説得出来ると軽く考えた俺が馬鹿だったんだ。亜依とやり直したいなんて思ってない。それは信じて欲しい」
「……じゃあ、なんで嘘を」
「ごめん。亜依に会わせたくなかったんだ」
「どうして」
「亜依は女性に対して敵対心を持ってるんだ。自分が一番で、嫉妬深い。恋人が他の女性と一緒にいるのを見ただけで激昂する」
亜依の焦点の定まらない目を思い出してぞくりとする。
「じゃあ、嘘をついたのは私を守るためだったの?」
「ああ、上手くいかなかったけどな」
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