悪役令嬢に転生したって言うのなら、とことんワルになろうじゃない!バイクが無いなら馬に乗り、嫌味を言うならタイマンで。バーサーカーお嬢様がお通りですわよ〜!

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「おどきになりまして〜!」  蹄の音を響かせながら爆速で馬を走らせる。登校中の生徒たちはモーゼの海割りのように避け、厩舎まで突っ走る。  私、アリシア・ローズレッドは転生者だった。はるか昔にプレイしていたゲームの世界、そうしてどのルートでも破滅を迎える令嬢に転生したと知った時、どうせ死ぬなら好き勝手やってしまおう。と吹っ切れたのだった。  登校には従者も付けず馬に乗り、服装は特注で作らせたセーラー服にスケバンの如く長いスカート。手にはいつも竹刀を持ち歩く。  学園にとっては私は問題児だ。が、貴族令嬢と言うこともあり誰も文句をつける者は居なかった。  厩舎に馬を預けて教室へと向かう。その道すがらでも人は波のように割れ、私は内心高笑いをしていた。教室に着けば後ろの席を陣取って机の上に足を乗せる。素行が悪すぎるが誰も何も言わない。  ホームルームが始まると、今日は編入生が居ると教師が告げる。入ってきたのはブラウンのボブカットにカチューシャを付けたおとなしめの少女だった。その子を見て、ああ、ゲームが開始するのだな。と理解した。  エリン・トース。それが主人公のデフォルトネームだ。そう彼女も名乗ると、私の隣の席に座るようにと教師に告げられる。こちらに来る彼女は私に気がつくと顔を引き攣らせた。そりゃそうだろう。得体の知れない悪役令嬢サマだ。見た目からして常軌を逸している。この時代に置いては。 「お、おはようございます」 「おはよう。私、アリシア・ローズレッドですわ。よろしくお願いいたしますね」  顔からして関わりたくない。と出ているが別にそんなことどうでもよかった。授業が始まり一旦体勢を正してノートを取りながら考え事をする。  主人公は確か、メイン攻略者であるこの国の王子に昼頃出会うはずだ。その他の攻略者にも後々出会うことになるだろう。私は出来るだけ巻き込まれたくはないが、王子は一応私の婚約者と言う立ち位置だ。昼食でも共にすれば会えるかも知れないな。と授業を受けながら考える。  その後昼休みに入り、エリンの共に食事を摂らないかと聞いてみた。 「わ、わたしでよければ」 「じゃあ行きましょう。私が居れば、海割りの如くスムーズに昼食が摂れますわ。ええ、そりゃあもうスムーズに」  食堂へと入るとまたしても海割りの如く人が避ける。悠々と歩きながら食事を手に入れて片隅の席で共に昼食を摂り始める。 「すごいですね。その、海割り」 「ええ、私、これでもワルで通っていますので。ほほほ、毎度のこと面白い光景ですわ」 「肝が据わってますね……」  昼食中雑談などしながら王子はまだ来ないかと頭の片隅で考えていると、爽やかな声が聞こえてきた。 「アリシア、君またそんな格好をして」 「あら、エルマ。私の正装ですのよ? 良いではないですか。ハメを外せるのなんてここに通っている間くらいなのですもの」 「だからって……、そちらの女性は?」 「あ、あの、編入してきました。エリン・トース、と申します」 「ああ、エリン。僕はエルマ。一応王子ってやつかな」 「え、お、王子!?」  エリンは驚いて声も出なくなっている。確かエリンは一般家庭の出だ。貴族が多いこの学園では肩身が狭い生活になるだろう。あまり他令嬢に目をつけられないといいが。 「僕も共に食事を摂ってもいいかな?」 「構いませんわ。エリンもよろしくて?」 「は、はい!」  緊張でかちこちになっているエリンにくすくすと笑ってしまう。その後昼食を共に摂り午後の授業。放課後になれば、私は馬で帰ろうかと厩舎に向かう途中、誰かが怒鳴るような声が聞こえてきた。校舎裏に厩舎はあるので、必然的にそちらだろうと覗いてみることにした。 「あなた、皇太子殿下に近づくなんてどう言うおつもりかしら」 「え、ええと」 「高貴なお方にあなたのようなポッと出が話していい相手ではないのよ。アリシア嬢ならばまだしも」  まさか昼食を共にしただけでいちゃもんをつけられるとは。運が悪いヒロインだ。ここは私が割って入るか。と竹刀片手に乗り込む。 「私の名前をお呼びになって?」 「え、あ、アリシア嬢!」 「まあまあ、ひとりに向かって徒党を組んで攻め立てるだなんて、良いご趣味ですのね」 「わ、わたくし達はただ、身の程を弁えろと言いたかっただけですわ」 「あら、貴族も一般家庭の出も、どちらも同じ人間なのに、なぜそんなものを気にしなくてはならないの?」 「あなたは、」  ひゅ、と竹刀を振り下ろすと、いちゃもんをつけていた一味は一瞬怯む。にや、と笑いながら私は一味に告げる。 「気に入らないのでしたら私と勝負でも致しますか? そちらは魔法あり。私はこの身と竹刀だけ。いい条件でしょう?」 「な、なぜアリシア嬢がこの女を庇いだてするのですか! アリシア嬢の婚約者に取り入ろうとしているのでは」 「まあ? ただ昼食を共にしていただけでそのような噂でもございますの? 私は特に気にも留めてはおりませんよ。さあ、勝負。勝負勝負勝負! 私が勝ったのならばエリン嬢には二度と近づかないと誓ってくださいませ!」  だっ、と駆け出して竹刀を振り下ろす。一味は四人。突然のことに戸惑っていたがすぐに応戦の体制に入る。魔法が脇をすり抜けていくが当たらぬよう避け続ける。  近づいて竹刀を振り下ろしひとりを戦闘不能に。続けて魔法を打ち続ける一味をもうひとり、ひとりと倒してゆく。残されたひとりに向かおうとしたが、戦意喪失したのか背中を向けて駆け出した。それに追いすがり竹刀を脳天に浴びせて昏倒させた。 「まあ弱い。弱者は汚泥を啜って生きるしかないのですから、今度からはお気をつけて」 「あ、あの、アリシアさん。その、やりすぎかと……」 「まあ! そんなことございませんわ! 争いの芽は摘んでおかないと。明日からは安心して学園生活をなさってね。噂が広がるのは早いですから」  にこりと微笑むと、エリンから引き攣った笑みが返ってきた。  家まで送ってやろう。と告げると拒否したさそうにしていたが、苦渋を飲んだようにか細い声でお願いします……。とエリンが言った。 「じゃあ厩舎に参りましょう。私の馬が居ますから」 「お迎えの方、いらっしゃらないんですか?」 「私拒否していまして、自分ひとりで登校しているのです。ささ、参りましょう」  厩舎に向かい、自身の馬に鞍やハミなどをつけて馬房から出す。馬に乗ってエリンも後ろに乗せると、捕まっていてくださいね。と柔らかく告げた。 「さあ! 飛ばしますわよ!」 「え、え、え?」  思い切り馬の腹を蹴ると馬が走り出す。エリンの悲鳴が聞こえてきたが知らぬ存ぜぬと無視を決め込む。 「おどきになりまして〜!」  学園の生徒にとって私は最早名物生徒。海割りのように人が避け、学園を後にして、教えられたエリンの家へと向かうのだった。
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