私は泣かない

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――― 痛い……。  そう思ったが修子は、声は上げなかった。  下校時の下駄箱。黒いローファーの中に画びょうが入っていたのだ。  確認するまでもないが、抜かなくてはいけないためそっと足の裏を見た。  血は出ていない。白いソックスに誤ってシールでも貼り付けたように丸い画びょうの姿があった。  見た目は痛そうだが、こんなことが3回目となると冷静に痛みを受け止められた。 ――― 死ぬような痛みじゃない。  それよりも、これで3回目だというのに靴の中を確かめなかった自分が嫌になった。  どこか、心の底ではまだこんなことされている状況を理解できないのだろう。  ため息をつくと、指でつまんで画びょうを抜いた。  刺さっているときより、抜いた時の方がじくじくとした鈍い痛みがある。  『人を痛めつけて楽しむような人は、誰もそれを悪い行為だと教えてくれる人がいない哀れな人なのだと思えばいい』と言われたことがあるが、そんなのはなんの慰めにもならないものだと修子は思った。  人の悪口を言う輪に加わりたくないと告げてから、いやがらせが続くようになった。  小さな正義感の代償は、思いの他大きかった。  じわじわとソックスに赤い小さなシミができた。  ――― いっそ真っ赤に染まれば、大声で痛いと叫べるのに。  修子は、靴を履き傷ついた足で力いっぱい床を三回踏みつけた。 「痛ったいじゃないの。バカ……!」  誰に向けた言葉なのか。  修子は小雨の降る中、傘も差さずに校門へ向かって真っすぐ歩きだした。    ――― もっと、雨よ降れ。            私は、泣いてなんかいない。 ・END・
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